「もういいよ……オロコ。僕は別に生きようとは思ってないんだ。
本当だよ。僕の魂を使ってよ。ノンノだって言ってるじゃないか! 」
僕はオロコに向かって伝えた。本心だ。
今更あんな所に戻って何になる?
「君はただ迷い込んできただけだ。一時心が揺らいでしまっただけで、こんな所に来るべきじゃない。その身体が死を求めた時にこそ、この地に来るといい。
お前にはまだ早すぎる」
「でも! 」
ノンノは逆に黙って僕達を見ていた。
彼女は花なんだ。オロコと一体になるかもしれない花なんだ。
「オロコ! お前死んでしまうかもしれないんだぞ! それでもいいのか? 」
今の世界から消えてしまいたいと願っている僕が、この世界から消えてしまうだろう狼に向かって叫んでいた。
僕とオロコの間には、神の子池が見える他は、周り全てが深い霧に包まれていた。いいじゃないか。お前は生きたって。僕は……
「生きて、お前が生きる世界に帰れっ! 」
「なんだよ、それ! 」
「命を全うしてこそ価値がある。無理にその命を絶とうとするな! 」
深い霧が、さっきみたいに風が起こるみたいに巻いて来た。
段々、その霧は嵐のように唸る────
「帰れ‼ 」
その霧は、竜巻のように唸る、唸る。
まるで、僕をその大きな鍵爪で掴むように。
オロコが狼に戻って掴むように────
ゴオォォォッ!!!!
空気が薄くなってきたんだろうか。耳がツーンとしてくる。
僕の目の周りが暗く……いや、空気が薄くなってきたから息が出来ない……
いつの間にか、僕は、意識を失ってしまったようだった────
ハックションッ!
うう……。
いつの間にか、僕はうたた寝をしてしまったのか。
ベンチの上で寝ていたようだけど……。
僕は起きてみた。なんだか遊歩道の所にあるベンチで一夜を明かしてしまったようだ。まだ夏場だからいいけど。さすが北海道。寒いものだ。
でも、ここはどこなんだ? 僕は確か予備校の実力テストで落ちて……。
そうだ! 僕は高校の夏休みを利用して、修学旅行に行けなかった摩周湖に行ってみたけど迷い込んで……ここで一夜を明かしてしまったんだっけ。
やばいな。ロッカーに荷物があるから戻らないと。
ふと、僕は看板を見つけた。
神の子池。
その看板を見つけて、僕は何があったのか思い出した。
帰ってきてしまったのか。
「神の子池? 」
「ああ、そうだよ。綺麗に澄んだ青い色を水面にたたえているだろ? なんでも、摩周湖と地下で繋がっているんだそうだ」
「キレイ……。あなたって、私に見せたかったのはこれなの? 」
「いや、違う。そんなのじゃなくて。というか────」
「…………どうしたの? 」
「僕が若かった時の思い出だ。あんまり、いいもんじゃないよ」
「どういう事? 」
「────というか、その思い出にケリを付けたかったんだ、多分……」