2年と3ヶ月付き合った彼氏にフラれた。苛ついて、とにかくどこかに行きたくて、気がつけば飛行機に乗っていた。
(……美味しいもの食べたい……)
あいつが甘いものは嫌いだとか言うから、ケーキもパフェもずっと我慢してた。旅行なんて金がかかるとか言うから、飛行機だって3年ぶりくらい。だから今から甘いものを食べに行くのだ。遠くに。北の大地の、大きな空港へ――。
同じ飛行機に乗っていた人たちは地下の電車乗り場か、到着ロビーからすぐのバス乗り場へ移動する人ばかりだった。私はその波から外れて2階へ向かう。なにせ私の旅の目的地はここ、新千歳空港なのだから。
北海道で最も大きな空港であり、国際線だって通ってる。その上ショッピングも楽しめて、グルメも楽しめて、なんと温泉もある。昔あの野郎に「ここに行くだけの旅行も楽しいんじゃない」と冗談交じりに言ったら「暇すぎるだろありえねえ」と鼻で笑われたのは今でも許してない。思えばあのときにこっちから別れを切り出せばよかった。まあ、思い出したくもない輩のことは忘れてしまおう。
「……でっか」
エスカレーターを降りてすぐに思わず呟いた。元々確認はしていたものの、2階から広がる大きなショッピングエリアは、吹き抜けの構造も相まって空港というよりは大規模な商業施設のようだ。大きなカートを引いて荷物検査に向かう人を尻目に、財布とスマホを入れただけの鞄を持った私は、北海道のあらゆるお土産が集うところへ勢いよく踏み込む。じゃがポックルもあるしポテトチップチョコレートもあるし、北海道限定のフェイスマスクだって大量に売ってる。シマエナガのグッズもたくさん。
(さすがにメロンそのものは……持ち帰るのつらいけど……おいしそう)
右を見ても左を見ても北海道土産がある。なんとまあ幸せな、物欲を刺激する空間なのだろうか。
油断するとつい商品に手が伸びてしまいそうだが、私はとあるお店、というか場所を最優先にすると決めていたので、祈るようなポーズで手を抑えながら3階へ向かう。
エスカレーターに乗って3階に向かう道中すれ違うのは、大量のお土産袋を持つ旅人たち。スーツを着たサラリーマンだって片手には何らかのお土産を持っている。そりゃそうだ、北海道土産を買わない理由は存在しない。
(何もかも美味しいもん)
そうして飲食店が並ぶ場所を抜けた先にあるのは、ロイズチョコレートワールド。チョコレートを作っている工場や工房を見学できたり、チョコレートに関する展示や、直営店があるすばらしい場所。
ファンシーな動物もいればロボットもいる為、通路を歩く子どもたちの目はキラキラ輝いている。私の目も多分輝いているけれど、それは可愛らしい展示ではなく大量に用意されている商品のおかげだ。
(生チョコ大量だし、限定品もあるっぽいし……最高……!)
しかしショップにはまだ入らない。買い物はもちろん予定しているが、その前に食べたいものがあった。以前北海道出身の友達に聞いた『チョコレートを挟んだパン』が食べたい。パンの名前を聞いたが彼女曰く「見ればすぐにわかる」と言われたので調べていない。
併設されたパン屋にはたくさんのパンが並んでいる。果たしてこの中から正解を見つけることができるのだろうか――そう思ったものの、不安はすぐに失せた。誰がどう見たってパンにチョコが挟まっているものがあったのだ。それも、大きな板チョコがまるごと。はみ出すぎてチョコレートを挟んだパンと言うよりもパンがおまけのチョコレートみたいだ。たしかに見ればすぐにわかる、チョコレートを挟んだパン。商品としては『グテ』と名前がついている。
近くのベンチでグテを早速食べることにした。まずはパンからはみ出ているチョコの部分にかじりつく。美味しい。そして次はパンと一緒にチョコレートを食べる。美味しい。カロリーなんてものはもう知らない。美味しいからいいのだ。じゅわりと口の中に広がるチョコの甘味が最高なのだから。
食べ終えたらすぐに立ち上がって、今度はショップに向かう。カゴに思うがまま生チョコレートを投げ入れることにした。美味しそうな味は片っ端から全部。それと普通のチョコレートも買って、ポテトチップチョコレートも買う。全部買う。私を止める人間はここに居ない。
店員さんにはきっぱり自宅用だと言い切り、たくさん保冷剤を詰めてもらった。私の山のようなチョコレートを見ていたよそのご家庭のお子さんが口をあんぐりあけている。
いいでしょう、大人ってこういうことができるのよ。
(……温泉も入っちゃおうか)
甘いものを食べたって、旅行したって、思いつきで温泉に入ったってもう誰にも怒られない。フラれた大人の遊び方としては、かなり上品な方でしょ。
結局温泉に行く前にもう一つグテを買った。思いつき空港旅って、サイコー。
