僕の傍に一緒について来てくれる人がいた。

 でも、人って、いうんだろうか。

だって僕だけにしか見えていないみたいだったから。

「君ってそんな事気にしてるの? 」

 僕は思わず右の席、声がした方向を見た。

 女の子。

 なんだか僕好みの可愛い子。

 微笑んだまま僕を見つめてくる。

 長い髪が肩にまで被さっている。その下には白いワンピース。

 マンガに出てくるような清楚な少女。

「別に気にしちゃいないよ。でも時々思い出してしまうんだ」

「そんな記憶なんか無くなってしまえばいいのよ。必要ないじゃない♪ 」

「ノンノもそんな記憶というか、思い出みたいなのあったんじゃないの? 」

 ノンノって僕が呼んだその女の子は、一瞬冷めた目をした。でもすぐそれは消えた。彼女をずっと見ていないと分からない事だ。

「もう、無いわ。いろんな事が多すぎて忘れちゃった」

「あたしの名前? ────そうねぇ……。じゃ、ノンノでいいよ」

 僕が摩周駅まで行く途中で、彼女は無人駅から乗って来て、僕の傍で座った。

 彼女は荷物も何も持っていなかった。

 僕は急ぐ必要なんて無かったから、各駅停車の路線で、ゆったり行く事にしていた。もうゴールは見えていた。というよりゴールなんか勝手に自分で決めてしまう事だ。テキトー、テキトー。

 そんな時に、彼女は車内は混んでいないのに、ボクに断ってなんかいないのに、勝手に僕の傍に座ってきた。

 そりゃ、こんなにささくれた、僕の心境なんだから、

 うぜえ、ほっといてくれよ。

 なんて思っていたんだけど、彼女は僕の心に巧みに入り込んできていた。

 僕と、ノンノと自分の事をそう呼んだ彼女は、一緒に車内で他愛の無い話で盛り上がっていた。といってもこっちは、殆ど僕のオタクなカメラの話とか、マンガやアニメの話とか。

 そんな時。僕が摩周駅に降りたいなと何気なく溢して、摩周湖に行きたいってちょっと言ってみた時だった。

彼女は僕に訊いてきた。

ねえ、狼を見に行かない?

 そういうわけで、僕は摩周湖に降りて……、現在に至る。

 僕達が摩周湖の近くの旅館に着いた時は、もう夜になっていた。

 僕達、というのは少々語弊がある。 ノンノは、あたしは大丈夫って言って、泊まらずに来てしまった。

 ミキオ、明日の朝になったら迎えに来てあげる。狼は逃げやしないよ。

 近くに住んでいるのか、泊まらずに出ていってしまった。

 どっちみち、彼女は他の人には見えはしない。大丈夫だろう。

 僕は、その旅館に泊まる事にしたんだが、観光地だから料金高いんだろうなあって思っていたんだけど────安いっ! 

 僕の家出料金に充分見合う宿泊料金だった。