ねえ、君は死ぬ時になったら、看取ってくれるような人はいるの?

 そんなのあるわけないじゃないか。

 俺は一人で逝く事にする。

誰にも看取られる事なく、一人で死んでいくんだ。

 そうだな……。

ほら、あの池に沈んでいるような、狼みたいな感じで、さ。

 僕、本崎(ほんざき)幹夫(みきお)は、大学を受験して二回目の春、またも大学受験で落ちてしまった。

 これで三浪に突入決定だ。

 丁度今はやる気ガタ落ち状態で、予備校も決めなきゃいけない時期なのに、申し込みの書類も出しちゃいない。

そういえば。

北海道に来たのは、確か高校卒業の時に、卒業旅行と称して友達と遊びに行った時だったっけ……。

しかも修学旅行で行き先が北海道と思ったら、札幌市でクラークの銅像を見て……、

〝少年よ、大志を抱け! 〟

とか言っておきながら、函館、札幌、旭川ってコース。こっちは折角風景を撮りたくて、スマホに飽き足らず性能のいい一眼レンズの光学デジカメまで持って来ていたのに。

 お決まりのコースじゃないか。

 卒業旅行でも、予定を組んで小樽や釧路、知床半島まで行くと思いきや、天候の悪さで空港まで来たのに、飛べませんって何だよ。後味の悪い思い出になってしまった。

 その時一緒に行った仲間も、さっさと大学に入学してしまった。

 僕だけ遅れてしまったじゃないか……。

 希望の大学に入る事が出来ずに二年を棒に振ってしまった。

 僕には二歳下の弟がいるが、そういう時に限って、そいつはストレートで大学に進学出来てしまった。落とした試験一本も無し。

 二浪もして決まらなかった僕は何なんだ。

 僕にこれ以上、大学に行けずに遊ばせるわけにはいかない。

 親父は会社の重役で、僕という姿がなんだかうざいらしい。母親は僕に気を使い過ぎて、かえって目立ち過ぎる。逆にこっちが馬鹿らしくなってきた。

 なんだか僕も、今年も続く浪人生活も家族も友達も、どうでも良くなってしまっていた。

 僕が釧路空港からJRでこの摩周駅に降りた時には、もう夕方近くになっていた。この辺りは、摩周湖に屈斜路湖等観光スポットが多く、それを目当てにした観光客が多いようだ。海外から来たような客が多い気がした。

 駅で働いている人以外、この町に住んでいる人が駅周辺にいない気がする。

 この駅舎、職員以外殆どが観光客みたいじゃないか。

 ナンダカ、君ダケ浮イテル気ガスル。

 僕は観光目的で来る予定で、摩周駅に降りたわけでもなんでもなかった。

 本当の事を言うと、僕は誰に知られずに消えたかった。

 世の中からこの惨めな姿ごと、消え去りたかったんだ。