「警察から聞いたの」

「そうだ。見世物小屋の事件から東野という人物の詳細をやっと本腰を入れて調べてくれたよ。過去に行ってきた犯罪行為は窃盗、誘拐、人身売買、殺人未遂」

「そこには驚かないね。悪行に手を染めているのは一目瞭然だった」

「東野という苗字や生年月日、住所は全て偽造。名前すらわからない。ただ一つ正確な情報は出生だけ。」

「よく分かったね」

 友之は、東京の見世物小屋に売られた時期の東野を知る人物に連絡を取ってくれたと続ける。親から売られ、見知らぬ土地に言葉も話せずやって来た幼い東野はどれだけ恐ろしかっただろう。幼少期の東野を思うと心が痛むが、子を売ったり、捨てる親が少なくないのは事実。

「東野が、最後に『神様なんていないと思っていた。礼を言わないといけないかも』って俺に言ったんだよ」

「境遇を考えれば誰だってそう感じるだろ」

「その言葉がやっと今、腑に落ちた」

東野の辛い過去を知っても彼は犯罪者であるので、許す訳にはいかないが東野自身も幼い頃に犯罪に巻き込まれていた。生きるにはこういう道しか残されていなかったのかもしれないと友之は庭をぼうっと見つめながら考える。

「後悔してるか」

 先程まで雲一つ無かったが縁側に雲が掛かって暗くなった。友之の重い声音が響く。

「してないよ」

 相変わらず、有雪は友之に背を向けているので表情が分からない。だが最近の様子から友之は感じ取っていた。有雪の後悔に近い様な複雑な感情を。

「お前が気に病むことは無い」

「別に。だた、後味が悪いんだよね。東野は間違いなく一線を越えた。それは事実。でもさ―――」

 淡々と話す有雪の次の言葉を待つ友之。

「彼が子供の頃に助けてあげていれば、って思う」

「俺もそう思うよ。でも、お前が「終わり」にしてくれた事を東野は感謝していると思う」

「そうだね。終わりは始まりでもあるから」

 地獄にも似た東野の人生に引導を渡した有雪。

 雲は縁側の上から移動して、一気に明るくなり庭のタンポポがまた揺れた。

 タンポポの花言葉は幸せ。生まれ変わったらどうか幸せにと有雪は願う。