張りつめていた緊張感が一気に緩んだのか、ララはその小さな体で有雪の膝にしがみついて離れない。その様子を見た友之も流石に怒る気にはなれなかった。まだ事情を聞いていないので一概に彼女が悪いとも言いきれない。兎に角、無事で良かったと有雪と二人で笑った時に部屋の扉が開いた。鉄格子を壊したので音が漏れたのかもしれないと友之が身構える。そこに現れたのは、痩身な男。

「コンバンハ。また会えて嬉しいよ、お兄さん」

 にやっと不気味に笑った男に有雪は冷たい表情を浮かべて何も言葉を返さない。

 友之はこの男が東野だと確信する。得体のしれない何かがあるような雰囲気に確かに有雪が「怪しい男」と言ったのも頷ける。すると、男、東野は虎が寝ている鉄格子をこんこんと左手で叩いた。手首に見える蛇の入れ墨。

「快起来」

 日本語ではない言葉を発した後、隣の鉄格子が開いた音が聞こえてくる。有雪は鉄格子ごと凍らせて壊したが実は鉄格子自体にも鍵が掛かっていたのだ。それを東野が開けなければ虎は鉄格子から出て来れない。友之が最悪を考えた瞬間、寝ていた虎が大きく口を開けてのそのそと有雪が壊した鉄格子の前までやって来た。そもそもどうして東野の言葉で虎が起きるのだろうか。

「友之、ララをお願い」

 ララを友之の方に預けた有雪は立ち上がる。目の前には虎。このままだと襲ってくるのは間違いないだろう。

「可以吃那个」

 東野がまたなにか言葉を発すると、驚くことに虎が東野の顔を見てから頷く。

「良い子だね」

 まるで飼い猫を撫でる様に東野は虎の頭を撫でた。

「有雪、こいつもしかして」

 友之は口を開けて信じられないものを見るような目をしていた。それもそうだろう。東野は人間と話す様に虎と会話しているのだから。

「うん。動物と話せるみたいだね」