街へとやって来た有雪と友之は早速、見世物小屋を目指す。ララは見世物小屋に閉じ込められているに違いないと考えていたからだ。それも厳重に閉じ込められているだろうと。コロポックルは人間に姿を見せてはいけないという掟がある。東野が掟を知っているかは不明だがララが珍しい見世物になるという事は変わりない。平たく言えば、ララは東野にとって金になるのだ。興行で様々な場所へ行く見世物小屋はこの地にも長くは留まっていないだろう。一刻も早く助けないとララはこの北海道から連れ去られてしまう可能性もあった。

「あそこだよ」

人間に化けている有雪は動きやすいという理由で黒色の甚平姿だ。一方の友之は紺色の着流しに袴姿である。有雪が指差した先には見世物小屋がある。奇抜な色の旗が立てられていて目印になっているかの様だ。その日、街は近くで縁日も行われているせいか、人がごった返している。手には林檎飴を持った人や顔にお面を付けている子供が道を歩いている。その中でも見世物小屋の前には恐い物見たさの人間が大勢集まっていた。「お代は演目を見てからで結構だよ」という呼び込みをしている中年女性の声が辺りに響いている。客に紛れて有雪と友之は見世物小屋の中へ入って行った。見世物小屋の中は木造のあばら屋の様な簡素な造りになっていて、客は敷畳みの上に座っていた。本日の演目と書かれている黒板にはララが出てくるような演目は書かれていない。有雪達は少しだけ安心しながらも、ララの行方を調べようと小屋の中を見回していた。友之は舞台から見て上手側、派手な垂れ幕の下に隠れている扉を見つけると有雪の甚平の端を引っ張った。

「なに」

「裏手にまわれるぞ」

 有雪の耳元で友之が静かに言うと目線を鋭くした有雪。その時、照明が落ちて見世物を行う舞台が照らされた。少しだけ高くなっていている舞台には一人の幼女がなにかを巻き付けて無表情で胡坐をかいている。

「おいおい、あの子大丈夫か」

「あれって蛇よね」

 複数の観客が驚きの声を上げる。女の子が巻き付けているのは生きている蛇だった。舞台から近い客は、蛇が動いているのがわかるだろう。中には舌を出して女の子の首から肩へ移動している蛇もいる。縦横無尽に動く蛇に女の子は動じない。人形の様にただ空虚を見ていた。友之と有雪さえも幼女と数匹の蛇という不気味な雰囲気に呆気に取られてしまう。その場にいる全員がその女の子に注目していると、突然慣れた手つきで一匹の蛇の腹部を掴んだ。

そして、そのまま蛇を口に含んだ。