見世物小屋の裏手に忍び込んだ有雪と友之は辺りを見回して人に見つからない様に静かにそこを歩く。扉を開けると通路の右手側に、長椅子と置き鏡がいくつか並んでいる。そこで見世物をする演者はは化粧や準備をするのだろう。左手側には物が乱雑に置いてあり雰囲気は倉庫の様だ。幸い、見世物が行われているので裏はひっそりとしている。通路を突き当り左に曲がると簡素な部屋が三つ並んでいてその奥には裏口が見えた。そこから外に出られる造りになっているらしい。

「友之、匂わない?」

 有雪は鼻を抑えてながら気になっていたことを指摘した。裏手に入った時から匂う、獣臭。

 それに友之も当然だが気が付いて「あぁ、動物を飼っているのかもしれない」と顔を顰めて答える。人がいない事を確認し、並んだ部屋の前まで来ると真ん中の扉だけ施錠が明らかに厳重だった。顔を見合わせた有雪と友之は迷いなく鍵を壊して中へ入って行く。

 そこで裏手に充満している匂いの正体がわかった。

「これって、虎か?どうしてこんな所に」

 数本の蝋燭に照らされている部屋には、なんと虎が鉄格子の中で寝ているではないか。静かに扉を閉めた有雪が「虎だね」と平然と言い放つ。

「おい、日本には生息していないぞ」

「どこかから持って来たんじゃない」

 虎を初めて見る友之は驚愕しているが、有雪はさほど驚いていなかった。それよりも大きめな鉄格子が二つ並んでいることを怪しんで隣の鉄格子に目を向けると今度は有雪が驚く番だった。

「ララ!」

 虎が寝ている鉄格子の隣、瓶の中に閉じ込められているララがいた。有雪達に気が付いたララは腕で瓶を思い切り叩く。有雪はすぐに鉄格子を凍らせて壊すと瓶に駆け寄って行く。瓶の蓋には小さな穴が開いており空気が入るようになっていたので彼女を殺すつもりは無かったのだろう。蓋を開けて外に出してやるとララが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら涙を流している。そして有雪に飛びついた。

「ごめんなさい!」