雪の森をフフが懸命に走っている。小さい足を前に前に出してやって来たのは有雪が昼寝をする時に好んでいる小さな丘だった。森の中にはこうした場所が幾つかあってそこは日当たりと風の通りが良くて昼寝に適しているからだろう。

「有雪様、ララがっ、ララが見当たらないのです」

 寝転がっていた有雪が起き上がって長い黒髪を揺らした。

「ララが?森の中もその辺りにもいないのかい」

「はい、随分探しましたけどいないのですよ」

 フフはララが心配なのだろう、顔を歪めて今にも泣き出しそうだ。

「わかった。俺も今から探すとしよう。フフは友之にもこの件を知らせて」

「わかりましたっ」

 フフはそう言うと一目散に友之の屋敷の方へ駆けて行く。フフを見送った後に有雪は嫌な予感が当たった様な気がしていたが、気のせいかもしれないと言い聞かせて、その場から消えた。

 フフから知らせを受けた友之は、屋敷の辺りをくまなく探すがララは見つからない。好奇心旺盛な彼女を以前に厳しく叱咤した記憶が蘇る。もしかしたらまた街に出てしまったのではないかと一瞬考えもしたのだが、すぐに頭を振ってそれは無いと信じることにした。

「友之、どうだった」

 その時、有雪が姿を現す。

「こっちにはいないな」

 友之が苦々しく言うと、有雪が顎に手を当てて考え込む。どうしたと問うと、「いや」と珍しく歯切れが悪い有雪。はっきり言え、と目線で訴える友之に根負けしたのか口を開いた。

「これは推測だけど、あいつに攫われたのかもしれない」

 その場に腰を下ろして腕を組んだ有雪は真剣な表情を浮かべた。

「あいつってお前が言っていた見世物小屋の奴か?――――名前はそうだ。東野って書いてあったな」

 友之は政府に属している知り合いに件の見世物小屋を調べて欲しいと依頼していた。だが詳しい事はわからず、東野自身が見世物小屋の頭目である事と、簡単な経歴が記載されている用紙が友之の元に届けられたのだった。見世物小屋自体も違法ぎりぎりの所で商売しているらしい。どう考えてもきな臭く、怪しいのは間違いないと友之は思っていた。そんな東野がララを攫う理由は一つしかないと言っても過言ではないだろう。

「見世物にするつもりだな、ララを」

「俺が悪いんだよ、ララを街へ連れて行ったから」

 有雪が目を瞑って額に手を当てた。普段からは遠く離れた態度に友之は有雪の心情が相当参っていることに気が付いた。

「ララが頼んだことだろう。彼女にも落ち度はある」

 友之の本心である。どちらも軽率な行動をしたのは違いないからだ。

「でもあの時、俺が止めておけばこんな事にはならなかっただろ」

「それこそ後の祭り、だな。だからいつも口酸っぱく言ってるだろう。――――もういい。早く人間に化けろ」

 友之の命令に有雪が口を開けてぽかんとした表情を浮かべる。

「ララを助けに行くぞ」

「うん、そうだね」

 決意に満ちた友之の声に有雪もようやくいつもの調子に戻ってへらっと笑った。