「―――あと友之に話しておきたい事がある」
正座を崩さないまま拳を握りしめた有雪の顔は珍しく真剣だ。
「街の見世物小屋の前に、蛇の入れ墨がある怪しい男がいた」
「蛇の入れ墨?なにか根拠があるのか」
見世物小屋の中には違法ぎりぎりの所で商売をしている小屋もある。子供を誘拐し、劣悪な環境で珍しい見世物をさせている所もある。政府は取締を強化しているが見落とされてしまう場合もあると友之は聞いたことがあった。
「根拠はあるよ。そいつは隠れていたララに気が付いたんだ。おかしいだろう」
件の男は何故か、有雪の着衣に潜んでいたララと有雪を含めて「また今度二人で、おいで」と言ったのだ。ララが少しだけ顔を出していた時もあったが、その瞬間を見られていた可能性は低いだろう。では、なぜ男はララの存在がわかったのか。
「気になるな。どんな奴だった」
友之は持っていた湯のみを置いて、有雪に問う。
「見た目で一番わかりやすいのは、目の色が違う。黒と、片方は緑がかった色だった」
「異国人にたまに見かける特徴だな。そういう人をオッドアイと呼ぶらしい」
「へぇ。不思議だね。珍しいなとは思ったけど」
「もしかしたら西洋の人間かもしれない」
友之は顎に手を当てて考え込んだ。
「うーん。そんな感じはしなかったよ」
維新後、この地にも異国の人間が商売のためにやって来る。両目の色が違う人間がいてもおかしくはない。
「うん。あとは痩身で顔色が悪くて、すごく嫌な感じがした」
「おい、お前がそう感じるってことはただ者じゃないだろ。――――この件は俺が調べておく」
「よろしく。でも、俺の気のせいかもしれない」
有雪は、不安な気持ちを隠して笑顔を浮かべた。
「そうだな。なにも起きなければいいが」
友之が神妙な顔で呟くが、嫌な予感は消えない。
そして友之のそれは当たって、後日ララが行方不明となってしまう。