ある会社帰りの日のこと……。

俺はいつものように疲れて帰宅している途中だった。

最寄りの駅に着くと、雨も降りだし、最悪のテンションだったが、急いで帰らないと雨に濡れるため、ダッシュで駅からの道のりを走った。

俺の最寄り駅は富良野に近いので、平日の夜は人が少ない。車通りもあまりないのだが、街灯が少しあるだけの田舎道なので、少し不気味にも思える。

すると、街灯がぽつりぽつりとある田舎道のはじっこで 、雨に濡れながらうずくまっている少女を見かけた。

俺は急いでいたが、どうしても少女が夜遅くに1人で雨に濡れてうずくまっていることが気になり、声をかけた。

「どうしたんだい?お母さんやお父さんは?」

少女はびっくりした顔でこちらを見る。

「え……?わ、私……ここどこかわからなくて」

迷子なのかと思い、聞いてみたが、そうではないらしい。

「私……リリーシュっていいます……。ここの世界はどこ?あなたは誰?」

俺は頭にハテナが浮かんだが、どうも、耳が人間と違う。ゲームで見たような「エルフ」の耳をしていたし、背中をよく見ると、羽のようなものがはえている。

俺は勇気を振り絞って聞いてみた。

「俺の名前は悠太。キミって……日本人じゃないよね?ていうか、地球人でもないよね?」

リリーシュはうん、とうなずいた。

警察に迷子の届け出をしてしまえば、大変な騒ぎになる。

かといって連れて帰って俺が面倒を見る?……それもなんだか責任が重い……。

でも放っておけないし……でも……でも……

俺は考えがごちゃごちゃしてきてしまい、混乱寸前だった。

ええい、もう!リリーシュは俺のところでとりあえず面倒をみよう!!そう決めた。

「リリーシュちゃん、ここにいると危ないから、お兄さんと一緒にきて!お腹すいてない?」

リリーシュはこくこくとうなずいた。

雨はやみ、俺とリリーシュはゆっくりと歩いて、俺の家へと帰った。

俺の家へ着いたとき、リリーシュが寒そうにしていたので、シャワーを貸し、俺は、異世界人が何を食べるのか、そもそも地球人と同じものが食べられるのかもわからなかったが、俺の家にあるもので、オムライスを作った。

リリーシュがシャワーから戻り、俺の寝間着を貸すと、夕飯にすることにした。

リリーシュはおいしそうに食べてくれたが、疲れていたのか、すぐに眠りについてしまった。

そして翌日……。

俺は休みだったので、異世界からきたリリーシュを富良野に連れて行こうと思い、車を出す。

リリーシュは初めての車にびっくりしていたが、乗っているうちに楽しくなったのか、

「なにこれ!楽しいね!!ね?悠太!!」

と、おおはしゃぎ。

富良野に着くと、そこはラベンダーでいっぱいのラベンダー畑がひろがっていた。一面が鮮やかな紫色で、とてもきれいだった。

「なに?なに?これ!!!すごくきれい!これなんていうの?」

リリーシュはテンションがかなり上がっていたらしく、ラベンダーに興味を示していた。

「これは、ラベンダーっていう花だよ。ハーブとしても使われていて、富良野の名物さ」

そう答えると、難しい顔をしていたが、とにかくきれいだね、とリリーシュは満面の笑みで俺を見てきたので、俺は少しドキッとしてしまったのだった……。

富良野ではラベンダーを見て、ジンギスカンを食べた。

リリーシュはもちろん、ジンギスカン……。羊の肉を食べるのは初めてだったので、

「羊さんって私の世界にもいるよ!でも食べるの?かわいそう……」

といっていたが、最終的にはおいしそうに食べていた。

俺は、リリーシュの笑顔が見たくて、リリーシュが可愛くて、愛しくて、何でもしてやりたいと、このときから思っていた。

「なぁ、リリーシュ。ずっとこの世界にいてもいいんだぞ」

リリーシュは、

「うん!一緒にいたい!本当にいいの?」

「あぁ、もちろん」

こうして2人だけの秘密の生活が始まると思っていた……。

――1ヵ月後――

リリーシュとの生活にも慣れてきたころのことだった。いつものように、休日は一緒に出掛け、平日はリリーシュが家事をしてくれている生活を送っていた。

俺が仕事から帰ると、電気がついていなかった。

俺はリリーシュがいないことに不安を感じ、電気をつける。

すると、居間のテーブルの上に一通の手紙が置いてあった。

「悠太へ

リリーシュは、元の世界へ戻らなくてはならなくなりました。突然のことでごめんなさい。でも、リリーシュは悠太のことが大好きです。これからもずっと忘れないからね!

リリーシュより」

と書かれた手紙には涙の跡がたくさんあった。

俺はそれを抱きしめ泣いた。

俺は1か月前にリリーシュと行った富良野のラベンダー畑で作ったしおりを机の上に置き、リリーシュと撮った写真を眺めた。

「待ってるぞ……また、俺の前に来てくれるって……」

そうつぶやき、なんだかリリーシュの声が聞こえたような気がしたのだった。