「その雪化粧で自分の心臓を刺した。時代が変わり蓮慈が当主の時、その刀だけが雪那を突き刺すことができた」

 雪乃は優都が持っている刀を見て呟いた。

「この刀には氷雨の力が宿ってるってことか」

「それは私にもわからん」

 ただ、と続けた雪乃だがそのまま黙ってしまった。続きを促す優都。

「雪那は氷雨を愛していた」

 雪乃の言葉に優都はようやく納得がいった。問題の答えがすとんと自分の中に落ちてきたような感覚を覚える。人間である氷雨を愛してしまったのはそれこそ愛故であろう。その女性の命は人間達の暴論により奪われてしまった。

「辛いな。――――もしかして雪乃も」

「馬鹿者。私にそんな感情は無い。ただ、家族の様には思っていた。だから私達は氷雨と一緒に逃げようとしていたのだ。この地ではない場所で暮らしていければと」

「森を出ようとしてたのかよ」

「そうだ。だがその前に氷雨は自ら命を絶った。森には精霊が必要だとあいつが誰よりもわかっていたからな」

 氷雨の当主としての覚悟と、芯の強さ故の決断だったのだろう。だが雪那はそんな高尚なものよりも彼女が生きていることを望む筈だ。雪乃と雪那にまつわる悲しい過去に優都はまた押し黙ってしまう。出会った当初は、不遜な態度の雪乃であったが今は辛そうな表情を浮かべている。

「なぁ、悲しみの連鎖はどこかで断ち切らないといけないだろ」

 優都の目には強い意志が見えた。

「それは私も同じだが。でも、あいつの憎しみや悲しみをどうしてやればいい」

 雪乃は涙を耐えるように目元を手で隠した。

「やっぱり俺は、雪那を止めらるのは氷雨だけだと思うんだよ」

 優都も雪乃同様に雪那の憎しみや悲しみをどうしていいのかわからなかった。でも氷雨なら雪那が愛していた彼女ならその悲しみをどうにか出来るのでないか。そして彼女は自分がなんとかすると言ったのだ。そして優都には雪化粧で雪那を突けと。

「俺は、氷雨が言ったことを信じるよ」

「そうだな……」