優都は森の中を歩いていた。霧に覆われた辺りは視界が悪く注意深く前へ進んで行く。手には使えないと思っていた雪化粧を持っている。雪那達がいた場所へ戻りたいと考えている優都だが霧のせいで来た道がわからなくなっている。

 その時、優都の名を呼ぶ雪乃の声がした。

「雪乃、どこにいる」

 返事を返すと、目の前に雪乃が現れた。

「雪那が追って来る。とりあいず移動するぞ」

 優都の腕を引っ張ってどんどん歩いて行く雪乃に、雪化粧が抜けた事と謎の女性が現れて「雪化粧で雪那を突け、私がなんとかする」と言われたことを話す。

「てか、その人って氷雨だと思うんだけど」

 確信をもって優都は雪乃を見ると、沈黙の後に雪乃が「そうだ」と呟く。

「あのさ、別に全部を教えてくれとは言わないからさ。その人と、お前等の間でなにがあったのかくらいは教えてくんない」

 雪乃の口調からも進んで話したい過去ではないだろうと優都は感じていた。兄弟であった雪乃と雪那がどうしてここまで拗れてしまい、雪乃は雪那を扇子に封印したのか。当主が蓮慈であった時の話は聞いたが、それよりも前から雪乃と雪那の間にはなにかがあったのだろう。そのなにかが、氷雨なのだ。優都は雪乃を問い詰める様に見た。

「氷雨はお前と同じ九条家の当主だった」

 当主、と優都は思わず繰り返す。

「あぁ。だが、当時は天災が多くあってその責任を全て当主の氷雨が負うことになった」

「なんだそれ。天災なんだから仕方ないだろうが」

「全くだ。私達はあくまで精霊で自然に発生してしまうものはどうすることも出来ない」

 雪の精霊である雪乃は雪を降らせたりすることが可能だが、自然の力には逆らえないのだ。

「私達だって元々は自然から生まれているのだ。そこをどうにかするなんて無理な話だ」

 雪乃は人差し指から雪を出した。それは溶けてすぐに無くなる。

「で、氷雨はどうなったの」

「自害した」

 は、という声が雪乃に聞こえていたかわからないが優都は喉の奥が詰まった。あんなにも活発な女性が自ら命を絶ったとういう事実が優都から言葉を失わせた。