俺は、夢を叶えられなかった。

バンドで夢のステージに立って、演奏することを……。もう、その夢も諦めなくてはならない状況だった。

今から、約半年前……。

俺たちの高校は、3年の夏で部活は自動的に停止になる。

最後に軽音部として、大舞台に立ちたいと、練習に練習を重ねて、大会に出た。

しかし、俺たちのバンドは予選敗退。

そんなに力がなかったのか?

実力はそんなものだったのか……?

ショックが隠し切れないまま、俺は卒業間近の卒業旅行に来ていた。

俺はバンドのことがつらくて、将来のことも決められないまま、“とりあえず”で、大学の文学部に入ることにした……。

だけれど、将来やりたいことなんて、今はない。

「あぁ、ねれねぇ……」

こんなことを考えていたら、夜になって消灯しても寝れず、俺は1人、赤レンガ倉庫へと向かった。

かじかむ手をさすりながら歩いていると、幼馴染の美月の姿があった。

「美月……?お前、何やってるんだよ?こんな時間に」

びくっとする美月。

美月はこちらを向かないまま、話し始める。

「え……?なんでもないよ?寝れないから外出てきただけ!!」

少し涙交じりの声のように聞こえたその声は、震えていた。

「お前……泣いてるだろ?」

美月がこちらを振り返ると、美月は涙で目が真っ赤だった。

「どうしたんだよ?なんかあったのか?」

美月は、それでも何も語らなかった。

俺は、美月のほうへと近づいていく。

「来ないで!こっちには」

美月が大きな声をあげる。

「なんでだよ?」

美月は泣きながら、

「昨日、何の日だったと思う?」

と俺に問いかけてきた。

俺はしばらく考えて、バレンタインデーだったことに気づく。

「あ……、バレンタイン?」

美月はコクリ、とうなずく。

「誰かにバレンタインのチョコ、渡せなかったのか?」

辺り一面に、赤レンガ倉庫のイルミネーションが広がっている。

美月が、急に泣き出した。

「うぅ……、なんでわからないかなぁ……、大樹がバンド活動最後だったように、私も最後だったんだよ……」

俺はなんの疑問も抱かず、美月のほうへと向かっていく。

「なんでわからないの!?」

美月が大きな声をあげる。

俺は目を丸くした。

「な、なに……?美月にとってそいつが最後ってどういうこと……?」

俺は正直、そいつになりたいと思った。

美月をこんなに泣かせるそいつを、一度説教したいとさえ思ったのだった。

美月は、

「あんたバカすぎる!!!ここまできてもまだわからないの!?」

美月が泣きながら続ける。

「私は今年の春から北海道の大学に行くんだよ!?大樹は東京の大学でしょ!?」

俺はここでやっと少し意味を理解した。

「まさか……美月がバレンタインのチョコ渡したかったのって……」

「そう……、大樹……」

俺は、めちゃくちゃ恥ずかしかった。

ずっとそばで美月を見てきたはずなのに、何も気づかなかったのだ。

俺は美月を抱き寄せ、

「俺のバンド活動は終わったかもしれないけど、俺は美月を守りたい。愛したい、これは素直な気持ちだ」

「大樹ぃぃぃ……終わりじゃなくて始まりにしてほしい……」

俺はうなずき、

「美月と俺は今日からがスタートだよ、安心しろ」

そういって俺は美月をいつまでも抱きしめた。

真夜中の、星空の下で……。