「味噌ラーメン美味しかった……」

 ラーメンを食べている最中に何度も思ったことだが、店を出ても余韻は消えなかった。
濃厚な味噌が縮れ麺とよく絡み合い、一口食べるごとにもう一口もう一口と箸が進み、あっという間に間食していた。

 食べきった後にくどさを感じることもなく、確かな満足感だけが舌先に残っている。

「味の三平は札幌味噌ラーメンの発祥店なんだよ。あー、食ってみてー」

 居酒屋デートの帰り道、ラーメン好きな彼がいつか行ってみたいと話していたことを思い出して、突発的に行ったお店だったが大正解だった。

 お店で撮った味噌ラーメンの写真を見返して、躊躇うこと十秒。味噌ラーメンの余韻に背中を押されて、彼に写真付きでメッセージを送る。

「味の三平最高でした。絶対また食べに行く」

 今度はあなたと。

 なんてことは書ける訳もなく、メッセージを送るだけ良くやったと自分に甘すぎる判定を下す。

 携帯を鞄に仕舞った瞬間、着信を知らせる音楽が流れた。着信相手は見なくてもわかる。悩みながらも通話のボタンを押す。

「絶対に今度一緒に食べに行こう」

もしもし
ごめん
なんで北海道にいるの?
あれは誤解だったんだ
俺への腹いせ?

 ケンカ真っ最中の彼が発するであろうと予測した言葉とどれも違う、予想外の言葉が返ってきた。
 私が書けなかった言葉を受け取ったかのような返事に戸惑っていると、彼の優しい声が耳朶を擽った。

「北海道寒くないか? ちゃんと厚着してるんだろうな」

「…………してる」

「そっか、良かった。……連絡してくれてありがとな」

「うん、あの……」

 怒りの言葉も謝罪の言葉も何だか全部違う気がして、言葉に詰まってしまう。

「ちゃんと聞いてるよ。どうした?」

 あぁ、何だか今日は背中を押されてばっかりだな。
 そんなことを思った途端、気持ちが軽くなった。小さく笑いを零して、短く彼に告げる。

「今日帰るから、良かったら迎えに来て」

「了解」

 短いやり取りはもう仲直りの間だ。いつもの空気感にほっと息を吐く。

「……てか、味の三平行ったの超羨ましいんですけど」

 安心したのはどうやら向こうも同じらしい。
 わざと軽い口調で文句を垂れる様子に、こういったところは似ているのになぜケンカしてしまうのかと、少しだけ不思議に思う。

「味噌が濃厚で美味しかったよ。野菜とのお肉の相性が堪らなかった」

「うわー、ずりぃー」

「今まで食べた中で一番美味しいラーメンだったかも」

「あー! もう何も聞かねー」

「あははっ」

 笑い声を上げながら味の三平を後にする歩調は、お腹いっぱいながらもお店に来る前よりも随分と軽いものだった。