「ヤバい! かわいい! 北海道尖ってる~」

 目の前の海鮮飯への感想を早口で述べながら、いつものように彼女が写真を撮りだす。

 彼女の目の前には、海鮮飯が2つ置かれている。
 2つ並んでいるのは、彼女が沢山食べるからではなく、自分の分の海鮮飯も被写体になっているからだった。

「だぁ君ありがとう。早速食べよー」

 SNS用によく写真を撮る彼女は、構図や色味にこだわりを持っているタイプなので、写真撮影には時間をかける方だ。
 ただ例外として、人物や食べ物に関しては、さくっと時間をかけることなく撮る。

 人に迷惑をかけない。ご飯は美味しくいただく。
 こだわりを持ちつつも、きっちりと線を引いているので、協力を願われることは多々あるが、彼女の写真撮影に不満を感じたことはない。

 小さなことかもしれないけど、そういったところが好きだったりする。

「美味そうだな」

 返してもらった海鮮飯は丼ではなく、ぱふぇとして販売している商品だ。

 飲み物を入れるカップの中に酢飯がぎゅっと詰め込まれており、その上にトッピングされているのが、本マグロにイクラやウニなどといった北海道の魚介だ。
 店内の照明を浴びて、酢飯の上でキラキラと輝いている。

「やだー、エビと目が合う! かわいい~」

 彼女がかわいいと位置付ける範囲は、北海道の面積と同じくらい広大だといっても過言ではない。
 頭がついたエビのつぶらな瞳と目線を合わせてはしゃぐ彼女を、かわいいと思う自分のかわいい範囲も、彼女と同等もしくはそれ以上に広大かもしれない。

 いただきますと声を揃えて、海鮮飯ならぬ海鮮ぱふぇを口にし、美味しいとこれまた声を揃えて、キラキラぱふぇを食べ進めていく。

 かわいいとつい先ほど感想を述べたばかりのエビの頭を、容赦なく外して彼女がぱくりとエビを食べる姿は、やっぱりかわいい。

 彼女をかわいいと思わない日は来るのだろうか、いや絶対に来ない。
 そんな問答を脳内で行いながら、サーモンを一口で放り込んだ。