「こんな贅沢が果たして許されるのだろうか……」

「そうね……。先人に感謝していただきましょう」

 大げさでもなく、心からの感謝と敬意を持って、目の前に並べられた3つのサッポロビールを前に、妹とともに手を合わせる。

 日本唯一のビール博物館であるサッポロビール博物館でのプレミアムツアーにて、創設者たちの生い立ちや歴史について学び、ビールを欲する気持ちは最高潮に達していた。

 500円と破格の金額できるプレミアムツアーの最後に用意されていたサッポロビールのテイスティングを前にすると、とてもいつものようにがぶ飲みなんてできそうにない。

「どれから飲む?」

 妹の問いにうーんと首を捻る。

 馴染みのあるクラシックを先にいただいて、初期の開拓使麦酒で歴史を感じ、最後に進化を遂げた黒ラベルで締めるのも良いし、生まれた順で飲んでいくのも良い。

 贅沢な悩みに結論を出したのは、妹の問いから5秒後だった。

 工場直送のビールを前に、時間をかけるなど愚の骨頂だ。そんなものは飲兵衛の矜持が許さない。

「決めた」

「いいね。せーので言うよ」

 妹もまた私に並ぶ飲兵衛だ。当たり前のように自分の答えをすでに導き出していた。

「せーの!」

「黒ラベル、クラシック、開拓使麦酒」

「開拓使麦酒、黒ラベル、クラシック」

 同時に言い合った答えは、一つも被っていなかった。

 食の好みも服の趣味も似ているが、なぜかそういったところは全く合わない。

 二つの甘いお菓子を持った母に、どれを買うか尋ねられると、必ずと言っていいほど違うお菓子を指した。

 動物園に行こうとの父の提案に二人で大喜びしながら、一番最初に観る動物で違う動物を口にした。

 基本的には仲が良いのだが、こんな感じで微妙に意見が食い違うことは多々ある。

「まずは全ての始まりである開拓使麦酒が先でしょ」

「いやいや、最後の締めにこそ全ての始まりだよ」

「あーあ。やっぱりお姉ちゃんとは合わないなー」

「こっちのセリフ」

 軽口を叩きながらお互いにビールを手に取る。

 そう、私たちは意見の対立があろうと、いつ如何なるときも飲兵衛の矜持を大事にする。

 かちんとコップを合わせて、ほぼ同時に美しい泡に口をつけて、美しい色をした液体を流し込む。

「んー! 喉越し最高!」

 妹が上機嫌で述べたビールへの賛辞に、こくこくと頷いて同意する。

 そう、私たちは基本的には仲が良いのだ。

 それぞれが飲んだビールの味の感想を言い合いながら、飲兵衛の矜持を大切にする私たち姉妹は次のコップを掴んだ。