ここは雪国。またの名を試される大地北海道。  その道庁所在地・札幌市も毎年大雪に見舞われる。
北国ならば毎年の雪にも慣れたものだろうと思われがちだが、
一度にあまりにも大量の雪が降ると道民だってパニックになる。  
除雪作業は追いつかず、関東圏に比べれば広いはずの道路が雪壁に覆われすれ違うのもやっとの狭さになるのだ。
雪にタイヤが取られスリップしたり、  最悪根深い雪に埋まってしまい、立ち往生することもある。  
中にはタクシーやトラックが坂道を登り切れず立ち往生――なんてこともよくある出来事だ。

「ああ……くそっ!」  そして車通りが少ない、急な上り坂でタクシーが一台立ち往生してしまっている。
二駆が多いタクシーは一度坂道で止まってしまうと上がれない。
タイヤが空回りし、ドツボにハマってしまうのだ。
後ろから押そうにも、運転席から離れるわけにはいかない。 助けを求めようにも今は乗客は一人もいない。
通りかかる車はみな迷惑そうに素通りしていく。

外はしんしんと降り続く雪。タクシーの運転手は絶望していた。
「大丈夫っすか?」  その時、運転手に希望の光が降り注ぐ。
「……後ろから押しましょうか?」  そこに立っていたのは二人の男子高校生だった。  
立ち往生しているすぐ傍に高校があり、そこの生徒が親切にも運転手に救いの手を差し伸べたのだ。

「いいんですか?」 「もちろんっすよ!」  
そして二人はタクシーの背後に回った。
「じゃ、いきまーす!」  高校生達がタクシーを後ろから押す。
それに合わせ、運転手はアクセルを踏んだ。タイヤはぎゅるぎゅると空回りするも、少しずつ進んでいく。


「なんだなんだ?」 「俺たちも手伝うよ~!」  
誰かが手伝い始めると、その輪は広がっていく。
二人が三人、三人が五人に、そこはあっという間に手伝いが集まってきた。


「押して!」 「……っ、もう少し! おせえええええ!」  大勢の力が加わり、車も頑張った。
タイヤは一生懸命に回り、坂道を上り……そして平坦な道へと上がる。


「やったあああ!」 「お疲れ!!」  
無事に危機を脱出した運転手はほっと胸を撫で下ろし、高校生達はお互いの疲れをねぎらっている。


「みんな、ありがとうね! これ……ほんの少しだけど、みんなでジュースでも飲んでよ!」
「ありがとうございます! 困ったときはお互い様っすよ!」  
そう笑う高校生達の鼻や頬は寒さで真っ赤に染まっていた。  


寒さ厳しい冬だからこそ、こういう温かい場面もあったりする。  
北海道の冬道は、譲り合い、助け合い。  雪国だからこその、暖かさだろう。