窓の下に広がる雪景色。見渡す限りの山々。広大な自然。
「新千歳空港に無事着陸しました−−」
飛行機が降り立つのはわが故郷、北海道。
年の瀬。関東の大学に通っている私は約一年ぶりに故郷に帰省したのである。

飛行機から降り、ボーディングブリッジに足を踏み入れた瞬間にぐっと下がる気温。室内にいても伝わってくる北国の寒気。この寒さを感じると北海道に帰ってきたのだと実感する。
『空港でかまぼこ買ってきてくれる?』
スマホの電源を入れると、母からメッセージが入っていた。
要求されたのは人気のある小樽のかまぼこ屋のかまぼこ。私の家族は皆この店のかまぼこが大好物だ。私と母はチーズちくわ。妹はすり身をパンで包んだ人気のパンロール。そして父はシンプルなひら天。ああ、考えただけでお腹が空いてくる。
『今千歳着いた。かまぼこ買って帰るね』
手早く母に返事を送った。
羽田から一時間半の空旅。体を伸ばすと関節がぽきぽきと音を立てる。
「……っ、さて。行きますか!」
移動だけでも体は疲れるものだ。かまぼこを買って早く家に帰って休みたいと、私はスーツケースを転がして足早に歩き出した。

「……さむっ」
用事を済ませ、高速バスに乗るため外に出た瞬間、凍えるような北風が吹き込んで思わず身震いした。
東京の冬も寒いが、やはりこちらの風は冷たさが違う。向こうで着ていたコートは薄すぎる。
吐く息白く、私は肩を丸め体を震わせながら、丁度乗り場に到着したバスにささっと乗り込んだ。
目的地は札幌。空港からの景色は羽田から見るものとはまるで違う。背の高いビル群はなく、背の低い建物ばかり。殺風景にも見えるが、その分土地が広く見える。北海道はでっかいどー、なんていうが向こうで生活していると改めて故郷の広さを実感するものだ。
結露で曇る窓を袖口で拭い、私は窓に凭れながら目的地に着くまでぼーっと流れ行く車窓からの景色を眺めていた。

「ただいまー」
家に到着したのは夜七時。
玄関を開けた瞬間感じる懐かしい我が家の香りと、漂っている美味しそうな香り。
「おかえりー。ご飯できてるから先食べちゃおう」
「んー」
バス停から自宅まで歩いた十分ほどですっかり体は凍えきっていた。
暖房が効いた暖かい家の中に入った途端、痛いくらいに冷たくなった頬が火照り、痒くなってくる。
空腹も限界。荷ほどきは後にしよう。
スーツケースを玄関に置き、食卓に向かうと既に家族は皆揃っていた。テーブルの中央にはぐつぐつと煮えているチゲ鍋が私の帰りを待っていた。
「おかえり。今日は特に冷えてるから寒かったろう。ほら、早く食べよう」
先に一杯ビールを飲んでいたお父さんが私に座るように手招いている。
「ただいま。これ、頼まれたかまぼこ」
「ありがと! ささ、食べましょ食べましょ」
私が買ってきたかまぼこと、暖かいチゲ鍋。
会えなかった時間を埋めるように色々な話題に花を咲かせながら、久々の家族との食事を楽しんだのであった。

「お姉ちゃん、アイス食べる?」
お風呂もあがり、夜のリラックスタイム。
私がソファでくつろいでいると、隣に腰を下ろした妹がカップのバニラアイスを差し出してくれた。
「お、サンキュー!」
私はにこやかに微笑んで、すぐにアイスをつついた。
北海道の冬の醍醐味といえばアイス。暖かい家の中で半袖を着ながら冷たいアイスを食べるのだ。関東では絶対にする気にならない。なぜなら向こうは家の中が凍えるほど寒いからだ。
「あー……最高」
「どうしたのさ」
「いや、北海道に帰ってきたなーと思って」
妹に怪訝な目で見られるが気にしない。私は今日一番、故郷に帰ってきたなと染み染みと実感しながらアイスを味わう。
「やっぱ我が家が一番だね」
家族みんな揃ってくつろぎながら、寒い冬に食べる冷たいアイス。これが私の至福のひとときなのである。