札幌市は南区から豊平川を流れる精進川。
俺は小学生の頃、その川の近くにある公園で毎日のように遊んでいた。
毎日同じ顔ぶれ、おまけにブランコと滑り台がある程度の小さな公園となると飽きがくる。不幸なことにその周辺に他の公園もなかったため、公園遊びに飽きた俺たちは川の周辺を探検してみることにした。
川は危ないから子供だけでいってはダメだといわれていた。だから川には近寄らず、川のすぐそばにあった雑木林の中に入っていった。
背の高い木々が乱雑にならぶそこは当時小学生の俺たちにとっては森のようで、本当に冒険している気分になった。
木の枝を杖代わりにして奥へ奥へと進んでいく。すると、生い茂る草むらの中に一本の小道を見つけたのだ。
「こっちいってみようぜ!」
怖いもの知らずの小学生。俺たちはワクワク気分でその道を突き進んだ。
道が開け、目の前に広がったものに俺は目を輝かせた。
そこはまるで異世界だった。
近くに大きな道路があるはずなのに、そこは鳥の声しか聞こえなかった。一面木に覆われほとんど空が見えない緑の世界。目の前には大きな沼があって、その水面は水草が覆っている。まるでファンタジーに出てきそうなほど幻想的な空間が広がっていた。
「すげぇ! すげぇ! ここ、秘密基地にしようぜ!」
そんな場所、子供が飛びつかないわけがない。
俺たちはそこを秘密基地として、毎日ここに集まって遊ぶようになったのだ。
そんなある日、俺はその秘密基地に母さんを招待した。
こんな凄い場所を知っているんだと母さんに自慢したかったのだ。
「こっちこっち! 母さん早く!」
「ちょっと待ってよ……なんでこんなところまで……」
雑木林の中を歩く俺の後ろを母は呆れ顔でついて来る。そして、秘密基地の場所につくと俺は笑顔で母を見た。
「どう! 俺たちの秘密基地、すごいっしょ!」
その場所を見回した母は俺と目を合わせるようにかがんで、その両肩に手を置いた。
「まーくん。危ないから、ここにきちゃダメだよ」
「え……どうして」
「もし誰かが怪我しても、ここじゃ大人がすぐに気づいてくれないから」
帰宅後、母は友人たちの家に電話してそれきり秘密基地は立ち入り禁止になった。
最初は不満に思ったものだが、当然のことだろう。あんな公園から離れたわかりにくい場所、子供だけで遊ぶにはあまりにも危険すぎた。
それからまた公園で集まるようになったけれど、その頃には別の遊びにハマり秘密基地のことなんてすっかり頭の中から消え去った。
それから十数年、俺は仕事でたまたまあの公園の近くを通りかかった。
「そういえば……秘密基地あったよな」
ふとあの秘密基地のことを思い出し、探して見ることにしたのだ。
幼少期の記憶を頼りに、公園の近く。川のそばにある雑木林に入っていく。あの頃よりも木々は成長し、さらに緑が深くなったような気がする。
しかし探せども探せども、あの場所は見つからなかった。
場所が違っているのか、草木が生い茂ったせいで道が塞がれてしまったのか。はたまた、あそこは本当に異世界だったのか。
何せ子供の頃の思い出だ。色々と補正がかかって荘厳なものに見えていたのかもしれない。
しかしこんなに広い北海道だ。不思議な場所の一つや二つあっても不思議ではない。
幼い頃の秘密基地。思い出は思い出のままにしておこうと、俺は雑木林を後にする。あの公園は今も変わらず子供達の楽しそうな声が聞こえていた。きっと彼らもいい秘密基地を見つけるのだろう。
