「そういえば、こっちきてソフトクリーム食べてないや」
北海道に遊びに来ていた友人がそういったのは、旅行の終わり、空港に向かう車内でのことだった。
「ソフトクリーム?」
「そう。ソフトクリーム。北海道のソフトクリームって美味しいっていうじゃん。食べ損ねたの勿体ないなと思って」
三泊四日の旅行。
海鮮やジンギスカン、ラーメンなど相当北海道グルメを味わったはずだが彼女はまだまだ足りないようだった。
しかし、今からどこかに行くにも友人が乗る予定の飛行機の時間は迫ってくる一方だ。
私はハンドルを握りながら暫し考える。
「それなら、空港で食べる? 確か何個かあったはず」
「お、いいねぇ。調べてみるわ!」
空港には時間に余裕を持って着くように早めに出た。
ソフトクリームを食べる余裕くらいなら十分あるだろう。友人は助手席でスマホを弄りだした。
「……ちょっとまって」
「どうした? なかった?」
「何個かどころじゃない……十個以上ある……」
「は」
それには私も驚いた。まさか空港にそんなにソフトクリームがあるとは。
「……どれも美味しそう」
「さすがに全部は無理でしょう」
「分かった。着くまでに絞っとくわ」
意気揚々と袖まくりをする友人。
あ、これは本気だと苦笑を零しながら私たちは空港に向かったのであった。
*
「――で? これはなに?」
「いやぁ……中々決められなくてさ?」
友人が搭乗手続きを済ませた後、私たちは中央ロビーのイートインスペースにいた。
丸いテーブルの上に乗っているのはソフトクリーム。それも六種類。
新千歳空港には北海道各地の有名お菓子店が並んでいる。その中にはソフトクリームを扱っている店も多い。
「これ……アンタ一人で食べるわけ?」
目の前に並ぶのは、ミルクソフトクリームが三つ、そしてチョコとハスカップとお芋味のソフトの計六つ。
「二人で半分こずつすれば沢山食べられるかなぁ……と思って」
申し訳なさそうに友人がプラスチックのスプーンを差し出してくる。
ソフトクリームは時間がたつと溶けてしまう。持って帰ることはできないから、ここで食べるしかない。
「わかったよ、もう付き合うよ!」
「さすが! 助かる! ここは私が全部おごるから!」
そして友人と二人でソフトクリームを食べ始めた。
最初同じミルクソフトを買ってどうするんだと思ったが、店によって味は別物だ。
濃厚なミルクだったり、生クリームを食べているような柔らかな口当たりだったり、さっぱりとした味だったり……三種三様だ。
「このバニラ美味しいね」
「あー……これは確か、あの店だわ。私はこっちの方が好きかな」
やいのやいのといいながら二人でソフトクリームをつつく。
最初は六つもと思ったが、あっという間に食べきれてしまった。
「やー……美味しかった! これで北海道悔いはないわ!」
「はは、それは何より。じゃあ、気をつけてね」
検査場で、友人と手を振って別れる。
彼女は沢山のお土産片手に意気揚々と帰って行った。
その数時間後、ソフトクリームの食べ過ぎで私も友人もおなかが緩くなったのはまた別の話である。