「おおーっ! 凄い!」
 自動ドアを潜ると吹き付ける風。
 一面に広がる眺望に私は子供のようにはしゃいだ。

 ここは藻岩山展望台。
 最近日本三大夜景に登録された札幌にある山だ。冬はスキー場、夏は登山者で人気の観光スポットでもある。
 私はふと思い立ち、藻岩山展望台までやってきてしまった。
 今日は幸い天気にも恵まれ、雲一つない快晴。札幌の街が一望できるまさに絶景。
 展望台に来るなんて何年ぶりのことだろう。私はついつい一人で興奮しながら景色を眺める。

「……お?」

 その時背後から、ごーんと低いベルの音が聞こえた。
 振り返ってみると、そこにはベルがあってそれをカップルが二人で鳴らしていた。

「この鐘を鳴らすとずっと一緒にいられるんだって」
「へぇ……あ、南京錠とか売ってるよ」

 仲睦まじそうなカップルが手にしたのはハートの形をした南京錠。
 よく見ると鐘の周りには南京錠がずらっと並んでいた。恐らくここを訪れたカップルたちが皆これをつけていったのだろう。

「恋人……ねぇ」

 私は手すりに頬杖つきながら、ぼんやりとそのカップルを眺めた。
 悲しいことに私は独り身。いつか彼氏と一緒にここに来られるだろうか。
 フリーランスをしていると中々出会いがない。どうか、恋愛の神様よ。私に良い恋人が見つかりますように。

 誰もいなくなった鐘に一人向かって小さく鐘を鳴らした。
 その音は心なしか寂しげに聞こえるような気がした。

「さて……行くか」

 私は展望台を出て、下のフロアにあるイートインスペースに向かう。
 そこでソフトクリームと珈琲を買って一人席に座った。

「こういうところで作業するのも、たまにはいいかも」

 濃厚なバニラソフトを食べながら、持ってきたパソコンを立ち上げる。
 窓の外に見えるのは、札幌の眺望。そして展望台にたどり着いた登山者たちの姿。
 いつもとは違う景色を見ながら仕事を進める。ここ最近はまた家に引きこもりがちだったから、あの絶景を見るのは良い気分転換だった。

 夕焼け、そして夜。
 きっとここの景色は時間毎に素晴らしい色を見せてくれるだろう。
 今日はこうして仕事に勤しみ、美しい夜景を見て、そしてたまには豪華なディナーでも食べて札幌の美しい景色を堪能する一日にしようと思うのであった。