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 朝食を食べ終え、後片付けを済ましてテレビを見ながらお茶を飲む二人。
 テレビ画面に映るニュースキャスター。勿論ルディネは今までテレビを見たことがない。
 薄く大きな箱の中で人が動いている。どういう仕組みなのだ――と、彼は興味深そうにテレビをくまなく観察していた。
「初めてテレビ見た人間みたいな反応だな。テレビ、見たことないのか?」
「……テレビ」
 ルディネが目を輝かせながらテレビを指さすと、タバタは微笑ましそうに頷いた。
 テレビ。これは、テレビというのかとルディネはそれを食い入るように見つめる。
 番組の中では北海道のローカルグルメ特集が流れていた。
 あげいも、焼きトウキビ、あんかけ焼きそば、海鮮丼、イカめし――などなど、次々映るグルメにルディネは一層目を輝かせ、テレビに顔を近づけた。
「タバタ、これはどこで食べられる」
 ルディネは喜々としてタバタを見た。
「お前、本当に食べ物が好きなんだな。食い倒れ旅行に来たのか?」
 彼は相変わらずルディネの言葉が分からないが、その表情から何をいわんとしているかは察しているらしい。
「北海道は広いし、色んな食べ物がある。おまけに上手い。旅行するにはぴったりだろうよ」
 よっこいしょ、とタバタが立ち上がり本棚から一冊の本を取り出しルディネに差し出した。
 それは北海道のグルメ情報誌。その中には見たことのないぐらいの美味しそうな食べ物がずらりと並んでいた。
「なんだ……この書物は……。絵が精巧すぎる……一体どんな腕の良い絵師が……」
 恍惚の表情でルディネはそれをぱらぱらと捲る。
 ルディネがいた世界は本こそあれど、写真はない。本に描かれるのは絵ばかり。魔物と遭遇し、明らかに絵とは異なる風貌に何度騙されかけてきたことか。
「そんなに気に入ったならあげるよ。好きなだけ見るといいさ」
「感謝する」
 ルディネは胸に手を当て、タバタに深々と頭を下げた。
 それが彼の国での礼の仕方。しかしタバタには伝わらないようだ。
「礼いってるのか? それなら、日本語では『ありがとう』だよ」
「……タバタ、アリガトウ」
 覚えた言葉を繰り返すと、タバタは嬉しそうに微笑んだ。 
 話が落ち着いたところで、タバタは湯飲みを置きルディネを見据える。
「ルディネ。お前、その様子だと行く当てもないんだろう」
 タバタの真剣な声に、ルディネは本を閉じ座り直した。
 タバタは言葉が分からないだろうと思い、財布の中から十円玉を取り出す。
「金、あるのか?」
 それを見て、ルディネは首を横に振った。
 息絶える間際、彼は既に一文無しになっていた。魔物に襲われた表紙に懐にしまっていた袋が落ちてしまったのだ。
 その答えにタバタはやはりな、と納得したように頷いた。
「それなら暫くここにいろ。仕事、手伝ってくれたら給料も払う。俺も助かる。Win-Winだろう」
 ルディネもまた、タバタの言葉が分からなかったがその意図は分かった。
 彼もタバタに恩返しがしたかった。それができるなら丁度良い。
「タバタ、アリガトウ」
 そう返事をすると、タバタは満足そうに笑った。
 こうして二人の口承は成立。ルディネの北国の地での滞在先も決まった。

 いよいよ、異世界北海道の地で転移者ルディネの生活がはじまろうとしていた。