二人が顔見合わせて少しだけ笑った時だった。
突然、地面が揺れたあとに不思議な浮遊感に驚く優都と雪乃。
「なんだこれ。え、浮いてね?」
「浮いているぞ。お前だけじゃなくこの森全体がな」
もはや聞き慣れてしまった雪那の声は、優都達より少し高い所から聞こえた。
「お前達だけではなく、この森自体も消してやる。こんな地など守る価値もない」
「それは氷雨が死んだからか」
雪那は優都を睨みつける。
「そうやって全部、人やこの土地のせいにする気かよ。好きな奴をみすみす死なせておいて。自分は悪くないって?それはお前がそう思いたくないからだろ」
優都が雪那に向かって煽る様に言い放った。
「黙れ!」
「は!二言目にはそれか。だっせぇな、お前こそ黙れよ。氷雨もこんな奴に好かれて可哀想に。雪乃の方がましだな」
優都はわざと雪那を煽っていた。怒りで我を忘れれば必ず、隙が出来る筈だと。どんな
一瞬でもいい。
「余程、死にたいらしい」
「これでも一応当主なもんでね。この森を守る責任があるんだよ。なぁ、これで最後ならお前の手で殺してくれよ」
雪那を見上げる優都。
「なにを言っている!優都!」
取り乱す雪乃を無視した優都は、雪那から目を離さない。雪那は静かに降り立って優都に近づいて来る。持っていた雪化粧を強く握りしめた優都。目の前に立った雪那は悲しい目をしていて、その手には氷で作った刃を持っていた。
雪那が優都の心臓を貫こうとしたその瞬間、冷気が漂った。冷たい空気を身に纏った氷雨が雪那の背中を抱きしめていた。
「雪那、もうやめろ」
柔らかい拘束に呆気にとられる雪那。
そして、その瞬間を優都は逃がさない。素早く雪化粧を抜いて雪那に刃を突き刺した。呻き声を出した雪那に、氷雨が後ろから労わるように雪化粧に触れるとそれは雪の様に解けて消えていく。
雪那は、振り返って愛おしい人を優しく抱きしめた。
「――――ずっと一人にして悪かったな……。これからは私がお前の傍に居てやる」
氷雨は優しく雪那の頭を撫でた。
「…………。やはりお前は横暴だ」
そこで優都は雪那の笑顔を初めて見た。その表情から、憎しみや悲しみは消えていた。愛している人が迎えに来てくれたのだから当然だろう。
「そこが良いのだろう?お前が私に早く想いを伝えないから悪い」
「私をあの世から封印しに現れる位には、お前も私を好いているのか?」
どんどん甘くなる雰囲気に優都は疲れて、その場に胡坐を掻いた。いつの間にか浮遊感は無くなっている。
「まぁな。これからは嫌という程に一緒にいてやるから。もう憎しみに捉われるな」
雪那の涙を拭く氷雨の言葉に頷く雪那は尚も静かに涙を零していた。
その様子を見つめていた雪乃は安心したように、柔らかく笑っている。
「迷惑を掛けたな。雪乃、優都」
そう言って、氷雨は雪那と共に雪の様に消えていった。