掟なんて破っても構わない、という姿勢の彼女に有雪は自身の性格に似ているなと感じるが友之にきつく言われている。それは全ての人間が彼等、コロポックル達と交友を築こうとは思うわけではなく、中には私利私欲の為に利用しようとする輩もいるからと。沙耶や自分以外との人間には決して彼等を見せてはいけないと口酸っぱく言われていたのだった。

「友之に怒られるからなぁ」

「絶対に友之様には言わないから。お願いよ、有雪様」

「ほんとに」

「ほんとよ」

 互いの小指を結んだ有雪とララ。悪戯に笑い合って、森を飛び出した。

 ララに負けず劣らず、有雪も好奇心旺盛だった。

 森を出た有雪とララ。

 人間へ化けた有雪は着衣も変えてどこから見ても人間に見える。ララは袖の中へ入れて隠れている様に指示をした。有雪自身も森からは滅多に出ないので人が行き交う活気ある街はとても新鮮だった。運河に近い街は、船が多く泊まっていて商いを営んでいる人の声が飛び交っている。街の中心部は木造の家と商店がずらりと並んでいた。見たことのない装飾品や西洋の食物が並んで、日本の西洋化が進んでいる。有雪は尖っている食物を触ったり、英吉利や亜米利加の旗を振って楽しそうに遊んでいた。

「あ、ララ見える。あの女性は袴に見たことない履物を履いてる」

ひそひそと袖口に向かって有雪が呟くと、ララが静かに頭を出した。

「あれはブーツといって西洋の履物なの。あの男性は着物の上にコートを羽織っているわ」

「へぇ。そういえば沙耶が洋服はとても高価な物って言ってた」

「私もそう聞いたことがある」

 上流階級の者だけが着ることができる洋服を庶民の人々が上手に取り入れていれて、和洋折衷の装いが流行っていた時代。袴にブーツや、着物の上に洋物のコートというのがある種、定番であった。人で賑わっている街をきょろきょろしながら有雪が歩いていると、突然男性に声を掛けられる。珍しい装いをしていて、手首に蛇の彫り物が見えた。

「ねぇ、お兄さん。夜に見世物小屋をやっているんだけど見に来ないかい」

 有雪が顔をあげると、男性は愛想良く微笑む。

「生憎、すぐ帰らないといけなくて。別の機会に来るよ」

有雪が手を上げてそう返すと、目をじっと見つめる男性。よく見ると微かに両目の色が違う。片方は黒で、片方は微かな翠だ。口元だけで笑うその表情に薄気味悪さを覚えるが、器用な有雪は顔を変えずに背を向けた。

「そうかい。それは残念だ。じゃあ、また今度二人で、おいで」

 その言葉に驚いた有雪は、振り返ったがそこには男性の姿は無かった。