人間に見られてはいけないという厳しい掟があるコロポックルだが、森に住む以上、九条家の者に会わせない訳にはいかない。現在の九条家当主である九条友之は心優しい男であるので有雪はなにも心配はしていなかった。連れてきた三人のコロポックルは、彼等の中で年長の男性であるヨヨ、球体に閉じ込められた男の子のフフ、有雪と話していた女の子のララだ。

 三人は人間に会うとのことでかなり緊張していたが、暢気で陽気な有雪を見て些か気持ちも落ち着いた様だった。森の入り口にある友之の家屋に声を掛けて入って行く一向。暫くすると、返事があった。居間に入っていくと黒髪で痩身の男性が座っている。

「珍しいな。昼寝をしてないなんて」

 胡坐を掻いているのが九条友之。雪森の門番である。

「まぁね。それには理由があって」

 理由、と続けた友之に有雪は隠れていたコロポックル達を見せた。三人は初対面である人間、友之に戸惑っていたがヨヨがすぐにお辞儀をして自己紹介を始めると、二人もそれに続く。突然の出来事に驚く友之だったが事情を説明する有雪。

「ってことで森に住みたいんだって」

有雪が説明を、大分簡素にしたので伝わっていないのでは、流石に断られるのではないかと、危惧したコロポックル達であった。

「了承した。これから宜しく頼む」

 笑顔を見せる友之は三人に向かって掌を差し出す。

「これから楽しくなるね。沙耶にも知らせないと」

 友之の妻である沙耶を呼びに有雪は台所に走った。

 コロポックル達が森へ住んで暫くしたとある日。

 好奇心旺盛な女の子、ララが有雪の元へやってきた。ララは精霊である有雪や人間の友之からの話を興味深く聞き、人々の暮らしについても質問や疑問を鋭く投げかける。その日は明治維新後の人々の暮らしを見てみたいとの事だった。

「ララ、君達には掟があるだろう。だめ、却下。」

 ララを窘める、有雪。

「そんなの百も承知よ。でもどうしても見てみたいの!西洋の文化が入って暮らしが変わったと聞くし、着物ではなくて洋服という素敵な衣装を身に付けているんでしょう」