時は明治、北海道のとある山奥に雪森と呼ばれる森がある。

 そこは、雪の精霊が暮らす土地として神聖な領域とされていた。人々は雪の災いが起きぬよう精霊を崇めて暮らしていた。

精霊の名前は、有雪という。

雪森には森番をしている九条家当主の許しが無ければ入れない。

 とある日、日課を済ませた有雪は昼寝をしようと横になった。精霊には睡眠は必要ないのだが有雪は、人間の様に生活するのを好む傾向にあった。目を閉じようとしたその時、なにかと目があった。なにかは、明らかにしまった、という顔をして慌てて逃げるが、有雪は素早く捕まえた。

「は、離せ」

 彼(恐らく性別は男性)の着衣を掴んで、自分の目の前まで持ってくる有雪。

「これは可愛らしい」

 有雪は、興奮した声を出す。

「お前は誰だ!僕を離すんだ」

「おうおう。元気だなぁ」

 じたばたと暴れる彼を見てにやりとする有雪は雪の玉を作り出して閉じ込めた。突然、球体に閉じ込められた彼は呆気に取られてしまう。

「これは簡単には壊せないよ」

 球体を叩く彼に向かって、有雪が言った。

「貴方、人間じゃないわね」

 高い声が聞こえて、そちらに目線を向けると目を輝かせて有雪を見る女の子が立っていた。有雪はよいしょとしゃがんで彼女に挨拶する。

「俺はこの森の精霊だよ。――――君達は?」

「私達はコロポックル。平和に住める場所を求めてここへやって来たの」

 有雪は「コロポックル」と聞いて、友人が話してくれたことを思い出す。江戸時代には蝦夷地と呼ばれたこの北の地に、彼等が住んでいたという話だ。明治維新を経て住む場所を追われているという話も聞いていた。そして、彼等には人間に見られてはいけないという掟がある。人間と交友を持たないのはそれなりの理由があるとは思うが詳細は有雪にはわからない。いつの間にか多くのコロポックル達が有雪をじっと見つめている。

―――平和に住める場所ね

 球体を人差し指で突くと、球が弾けた。中に閉じ込められた彼を掴んで肩に乗せる。

肩に乗せられた、彼は唖然としていたが善は急げと有雪は、友人であり森番でもある九条友之に彼等を会わせるべく、森の入り口にある彼の家屋に向かうことにした。