六月――今年も北海道に夏が近づいてきていた。
 今日の天気は快晴、気温は三十度。六月の平均気温を超える、見事なまでの真夏日だ。
 関東圏に比べれば、比較的涼しい北海道といえどもやはり暑いものは暑い。
 北国特有の熱を逃がさない家の作り。最近はクーラーをつける家も多いというが、それでも道民の家の多くはクーラーがない。

「あっちぃ……」
「溶けるよ……」
 とある四人家族。
 うだる猛暑の中、物置から引っ張り出してきた扇風機を前にして涼を取る。
 毎年クーラーを買おうといいつつも、結局買いそびれ、またこうして夏を迎えてしまったわけである。
「……晩ご飯つくる気も起きない」
 時刻は夕方16時。
 兄妹は扇風機の前で項垂れ、妻も無気力そうに寝転んでいる。
 折角の休日だというのに皆は熱さにやられてしまっている。ここは自分がどうにかするしかない、と父は麦茶を飲み干して高らかに宣言した。

「よし、皆出掛けるぞ!」
「はぁ?」
 全員が同じリアクションだった。
 渋る三人を男は半ば無理矢理家の外に出し、車に詰め込んだ。
 熱気が籠もる車内の冷房をガンガンに強め、不服そうな彼らを連れ男は車を走らせた。

「どこ行くの?」
「内緒!」
 通りがかる家は、皆外でバーベキューをしていた。
 よく晴れた夕方、外でジンギスカンを食べながら飲む冷たいビールは至福だろう。
 そんなことを思いながら、札幌市内から車を走らせること一時間。

「うわあっ!」
 子供たちから歓声が上がった。
 そうして車を止めると、子供たちは外へと飛び出していく。
「貴方ここって……」
「ここなら、涼しいだろ?」
 やってきたのは石狩湾だった。
 車を降りると、ふわりと漂う潮風と、聞こえる波の音。子供たちは砂浜ではしゃいでいる。
 まだ海開き前、泳ぐこともないけれど……避暑には最適だろう。
 北国の海の水温は中々に冷たい。軽く触れるだけでもすぐに涼しくなるはずだ。
「暑いから海に連れて行くなんて、ロマンチックじゃない?」
「折角の休みだし。子供たちも最近どこにも連れて行けてないし……たまにはいいだろう?」
 車に凭れながら夫婦は語らう。
「……お寿司食べたいわね」
「俺は焼き肉がいいなぁ」
 なんて会話が被って笑い合う。
 暑い日は家事もやる気が起きない。こんな日くらいは外食も良いだろう。
 暑い家の中から一変、涼しい海にやってきた家族の休日はこうして過ぎていくのであった。