「7月だというのに寒いとは、さすが北海道だ」
「さて、とりあえずブラブラと歩いてみるかな」

俺は大学で写真を専攻している。昔からカメラが好きで良く写真を撮っていた。気がつけば大学にまで来ていたのだが、実は旅行というものをほとんどしたことがなかった。修学旅行で奈良に行ったのが最後で、それ以外は大学のある東京で写真を撮っている。どこで何をするか、飛行機や電車のチケットを取ったり、そもそも行きたい場所が無いのに考える時間が無駄だ。そんなことよりも東京の町並みを撮影するほうが好きだし、ちょっと足を伸ばせば大自然もある。東京は都会も田舎もある良い場所だと思っている。

そうして作品作りをやってきたが、困ったことに卒業制作のテーマが全く決まらない。友人たちは海外に行ってスナップ写真や報道写真を取るのだとさっさと日本おw飛び出していってしまった。国内旅行すら面倒なのに海外なんて全く興味がない。そんなことより奥多摩にでも行って都会との違いを撮影しようかな……、などと漠然と考えていたところ友人から面白い話を聞いた。

そして卒業制作のテーマは「旅」にした。せっかくの大学生活を謳歌するため、という意味もあるのだが、友人の話によると北海道東川町が「写真の町」と呼ばれているというのだから行かざるを得ない。しかし北海道なんて行ったことがない土地だ、大丈夫だろうか。

インターネットで飛行機のチケットを探す。東川町にいくためにはいくつかの交通手段が考えられるが、一番近い旭川空港を経由することにした。チケット料金だけ考えれば新千歳空港のほうがLCCもあり良いのだが、そこからの移動手段を考えると余計な出費が出てしまう。旭川を経由すれば時間も早い。

――というわけで俺は今「道草館」という場所にいる。長い夏休みを利用して東川まで来たのは良いが、東京の気温とは全く異なる。湿度も低いし、何せ寒い。寒いとっても20度前半の気温はあるのだが、乾いた風が何故か冷たく半袖だと鳥肌が立ってしまうほど寒い。

「歩いていれば体も暖まるだろう」
リュックからカメラを取り出して首からぶら下げてあるき始める。どんどんシャッターボタンを押していくと普段の調子が出てきた気がした。せっかくだから人物も撮りたい、そう思うが全然人が歩いていない。
「さすが北海道、東京みたいに人がいない」

学校のグラウンドで野球の練習をしている小学生がいた。近づいてカメラを構える。すると一人の少年が走り寄ってきた。

「カメラだ!写真撮ってくれよ!」
元気の良い男の子がポーズをとってまっている。俺は少し戸惑いながらもシャターを切った。それに気がついた仲間たちが次々と走り寄ってくる。なんでこんなにもカメラが好きなんだ?東京じゃカメラを向けると嫌な顔をして避けていくのに。

「なあ、君たちはカメラが好きなの?」素直な疑問を少年にぶつけてみる。
「えー、写真撮る人いっぱいいるから普通だよ」
「外国の人もたくさんくるし、みんな写真撮ってるよね」
「オレら写真クラブにも通ってるんだぜ」

そうか、これは普通か。そういえばここは写真の町だったな。行政が勝手に盛り上がっているだけじゃなくて町民にもちゃんと浸透しているんじゃないか。すごいな、写真の町は。
ようこそ写真の町へ。子どもたちからそう言われた気がした。