優都が爆発音のした方まで走って来ると、雪乃が苦しそうにつくばっている。
「雪乃!」
 雪乃は顔を歪めて、優都を見たがその場を動けない。優都は急いで雪乃の元に駆け寄って声を掛けた。
「誰だ?お前は」
 突如聞こえた、ぞくりとする低い声に優都は驚いた。
 雪乃に似た顔。だが鋭い目付きと意地の悪そうな表情をしているもう一体の雪の精霊。
(雪那……)
雪乃の傍には壊れた本物の扇子が投げられていた。
「この首飾りに見覚えがないか?」
 優都は首から下げている首飾りを握りしめて、大袈裟に見せつけた。
「は!こんな餓鬼が当主だと?」
「っ!……。蓮慈も同じ位の齢だっただろ?」
 優都の代わりに雪乃が応えるが、その声は辛そうだ。障壁を張っていたせいで、コロポックル達が言っていた通り力をかなり消耗していた。
「――――その名前は聞きたくない」
 雪那は心底不快な表情を浮かべた後、掌を広げて氷柱を作り出していくとそれを空へと投げた。優都は、自分達に向けて来ると思い構えていたのでぽかんとしてしまう。
(なんで上に投げた?)
 疑問を感じた優都だが、答えはすぐにわかった。投げた一つの氷柱は瞬く間に無数の数となり空から落ちてきた。鋭く尖った先端部分が刺されば死ぬだろう。
「雪は玩具じゃないって蓮慈に言われただろ?」
「これは氷だぞ?」
 意地悪く笑う雪那。落下してくる氷柱を避ける為に雪乃は右腕を高く上げて掌を前へ出した。
「っ……!ちっ!」
だが、力が弱まっている今の雪乃では止められない。すかさず、優都が雪乃の前へ出て自分達へ落下してくる氷柱を刀で粉砕する。それを見ていた雪乃は目を丸くした。
「その刀……。雪化粧か」
 優都が手にしている刀に気が付いたらしい雪那も驚いた様に呟く。
「なんでお前が持っている?!」
「な、なんだよ?そんなに驚くことか?」
 雪化粧を見て驚愕している雪乃。どうやら雪の精霊達にもこの刀は特別な物らしい。
(まぁ、大昔にこれで雪那を倒したっぽいから。でも今は刀のことよりも)
「おい、そこの災悪。いい加減にしろよな」
 大人しく封印されておけと続けた優都。
「それは私のことか?」
「お前以外、誰がいんだよ」
「…………。相変わらず人間は五月蠅い生き物だ。――――今回こそ、皆殺しにしやる」
 封印が解けた雪那と力を消耗している雪乃。そして、刀身が抜けない雪化粧。父親の敵でもある雪那と遂に対峙した優都。
「そんなことさせるか」