「そうやって!妹同然だった氷雨を失った後も兄さんは人間に肩入れする!人間が全て悪いのだ!」
「っ!だからだろう!もう二度とあんな思いはしたくないんだっ!どうしてわからないんだ!」
 今度は雪乃が雪那に向かって怒鳴りながら近づいて胸倉を掴んだ。雪那は抵抗もしないままだった。

「ならば!弟の私は?!失っても平気だと?!」
雪那の悲痛な声に、一瞬唇を噛み締めた雪乃だがすぐに言い返す。
「それはお前が人間との共存を拒んだからだろう?それにお前が先に俺を扇子に閉じ込めようとしていたのを忘れたのか?!」

 人間との共存を望む雪乃と人間を皆殺しにしようとしていた雪那。
「本気でやろうとは思っていなかった!」
「それを信じるとでも?」
「ならもういい!」

 雪那は雪乃の腕を振り払った。
「十分だ!」
 雪那は刀の切っ先を雪乃に向けた。雪乃は悔しそうな表情を浮かべて雪那を見つめる。兄弟の思いは遠い昔にすれ違っていた。そんな二人を見て優都は悲しさを感じてしまう。人間とは違うかもしれないが兄弟には変わりないのだ。家族で恨み合うのはかなり辛いだろう。兄弟がいない優都でもそれはわかる。拳を握りしめた優都が雪乃に向かって口を開こうとした時、突然辺りが霧に包まれた様に視界が悪くなった。
「なんだこれ?!」

 驚いている優都にすかさず雪乃が反応する。
「優都!雪那の仕業だ!お前は雪化粧を持って森の中へ入れ!」
「だから嫌だって!」
 近くにいた筈の雪乃の姿が見えずに優都は辺りを見回す。

「我儘言うな!早く行け!」
 雪乃の怒号に優都は舌打ちして森の中へ走って行く。だが霧に視界が覆われていて優都も道がわからなくなっていた。自分の勘だけで足を進めて行く。

「っ!なんも見えねぇし!雪乃の奴!てか、この刀はいつ抜けるんだよ!」
「この戯け者!」
 優都は驚く間もなく、優都は背中に衝撃を感じた後盛大に転んだ。
「いっ……たぁぁぁぁ!は?誰?!」
 額を押さえながら優都が振り返る。
「先程から怒りを募らせおって!それでも九条の者か!」
 そこには先には、仁王立ちしている女性が優都を睨みつけていた。不思議と霧の中でも彼女の姿ははっきりと見える。

(は、まじで誰だ?)
 彼女こそが優都の背中に飛び蹴りを食らわせた人物であった。