雪那が作り出した氷柱が空から無数に落ちてくるがそれを止める術は無い。
「優都っ!一旦、森に隠れろ!」
 そんなことできるか、と思いながら雪乃の命令を無視して優都は全力で雪那に向かって刀を振りかざす。鞘に収まったままの刀でも威力は十分あるだろうと判断した優都の一撃だった。刀身が剥き出しなら、重症だろうが雪化粧は抜けないままである。使えない刀を持て余しながらも優都はそれを使いこなそうと必死だった。

「なんだ。逃げないのか?――――ならお前を一番先に殺すぞ」
 優都の攻撃は雪那に軽く避けられてしまう。面倒そうにため息を付いた雪那は、氷の刀を作り出していく。いきなり作れていく武器に優都は驚いていると雪那はその隙を狙って
尖った先端を優都に繰り出してきた。氷柱よりも鋭利で優都は寸前の所で交わしたが右頬の辺りにぴりっと痛みが走った。

「刺したと思ったのだがな」
「精霊は武器も作れるなんて聞いてねぇぞ」
「っ……!やめろ、雪那!これ以上、人間を殺してどうする!?」
 突然、雪乃が怒鳴った。だが、雪那は雪乃を冷めた目で一瞥しただけだった。
「お前が人間を憎む理由もわかる。だが、これ以上無益な殺生をしても状況は変わらないぞ」
 苦しそうな顔で雪乃は雪那に説く。変わっていってしまった弟を雪乃だって助けてやりたかった筈である。だが、それも叶わず雪那は小さな扇子に封印されてしまった。それが最善と判断した雪乃なりの決断だが、心は酷く傷ついただろう。

「―――氷雨もお前にこんなこと望んでいないぞ」
「黙れ」
 氷雨、と言った雪乃に雪那がすぐさま反応した。優都は二人の会話の意味がわからず、ひさめって?と呟いていた。

「私達が殺したも、同然の氷雨が今のお前を見たら!」
「煩い!」
 雪那の表情は先程とは一変して、怒りに燃えていた。今にも雪乃に斬りかかりそうな勢いに優都は刀を握りしめる。

「私達が殺したってだって?兄さんも見ただろ?!氷雨を殺したのは人間だ!災厄を全て『氷雨のせい』だと言って!氷雨を自害に追いやった!」

「…………。私達でそれを止めることだって出来た筈だろう」
 雪乃は眉間に皺を寄せて静かに反論した。