「ねえねえ、中央図書館にいきたいんだけど、今すぐ!」
突然娘が図書館に行きたいと言い出した。なんでも読書感想文の宿題をするために必要な本があるのだとか。
「えー、今すぐって、なんで早く言わないの!」
「だっていま思いだしたんだもん!」
旭川にある中央図書館は19時が閉館時間となっている。現在時刻、18時30分。
夏なら十分間に合うが今は冬。路面状況は圧雪アイスバーンで最悪だ。普通に車を運転していたら間に合わない。
仕方ない、アレを使うしかないか……。
私は禁断のルートを使うことを決心したのだった。

娘が支度をしている間に車のエンジンをかける。暖気なんで悠長な事は言ってられない、多少車内が寒かろうが吐く息でフロントガラスが曇ろうが関係ない。そんなことよりもあの魔のルートを使うことに神経が研ぎ澄まされていた。

「お母さん、間に合いそう?」
「大丈夫よ、最短ルートで行くから」
「もしかして、あそこから行くの!?」
娘も気がついたようだ。そう、今から行くのは旭川中心部にあるロータリー。通称「魔のカルーセル」……と言っているのは私だけだと思うけど。旭川市民でも積極的には使いたくないロータリーだ。ここを通ると図書館まで大幅なショートカットができる。しかしこのカルーセル、そんじょそこらの運転技術では通ることが許されない魔のロータリーなのだ。ものすごく便利な道なので積極的に使いたいのが本音だが、いかんせん走行ルールがわかりにくくて使うのには勇気がいる。

ロータリーとは道路が円形をしていて、複数の道に分岐させるために生み出されたものだ。6本もの国道・市道が接続しており、このロータリーを使えるようになって一人前とも言われている。もちろん私は未熟者だ。

いよいよロータリーに差し掛かる。ローカルルールがあるので出入りの時が一番緊張する場面だ。ロータリーとはいえ基本的には直線道路だというイメージがあれば間違わないはず。脇道から直線道路に入ろうとすると必ず直線が優先になるのと同じで、ロータリー内の車が優先だ。さらにローカルルールとして国道が優先される形となっているが、今日は運良くスムーズに進入できそう。

左右を確認して急いでロータリーに入り、車がゆっくりと右旋回を始めた。

ここからが戦いだ。他の道から新入してくる車が無いか、信号機は青になっているか。ローカルルールを知らない旭川ナンバー以外の車が走っていないか。あらゆる視覚情報を駆使してロータリーを回る。

いよいよロータリーを抜ける、ここが正念場だ。早めの左ウインカーを出して周囲の車に私がロータリーから出ていくことを知らせなくてはならない。これが遅れてしまうとロータリーから出られずぐるぐると永遠に回り続けてしまう可能性が高い。
左ウインカーを出した。
後続車が少しだけ速度を緩めた。いまがチャンス!
横断歩道の歩行者がいないことを確認してロータリーを脱出した。ふう、なんとか無事にたどり着けたようだ。
図書館はロータリーを抜けたすぐ先にある。車を駐車場に止めて娘を送り出した。
「やっぱりロータリーは苦手だなあ。寿命が縮まる気がするわ……」