「……ここまで、か」
 今際の際、ルディネは力なく呟いた。
 一人各地を巡る冒険の旅をしていたが、突如凶悪な魔物に襲われ致命傷を負ってしまった。
 大木に持たれかかる男の体は血塗れで、もう自分は助かることはないと悟った。
「俺を、食うのか」
 目の前にいるのは熊ににた大型の魔物。
 鋭い牙、鋭い目。今にもルディネを食おうと舌舐めずりをしながらこちらにのそりのそりとやってくる。
 この世は弱肉強食。食うか食われるかだ。自分で選んだ冒険者の道——こんな終わりも覚悟していたはずだ。
 まだ若々しい命だ。きっと俺は美味いだろう。
 そういえば、今日はまだろくなもの食べていなかったな。最後に食べた美味いものはなんだったか。
 酒が飲みたい。肉が食べたい。ああ、あの街で食べた料理は美味しかったな。
 そうだ。俺は冒険をして色々な街を巡って、美味しい料理を食べるのが大好きだったんだ。そんな俺が魔物の餌になって終わりだなんて、まぁなんとも皮肉がきいた話だろう。
「……っ」
 目の前に魔物がきた。大口を開けて俺を食わんとしている。
 どうせ食うなら止めをさしてからにしてほしいものだが。今更抵抗できる力も残っていない。
 そして目の前に迫る牙、ああ、いよいよこの世ともおさらばだ。
「あー……美味いもんが食べたいなぁ」
 その言葉を最後にルディネは事切れた——はずだった。

「——————は?」
 いつまでも襲ってこない痛みにルディネは呆然と目を開けた。
 すると先ほどまでいた場所から一点、見知らぬ街に立っているではないか。
 見たこともない移動物体が走っており、街いく人も段違いで多い。道行く人間は皆口元を布で覆い、呆然と道の真ん中に立っている男を不審そうに見つめている。
 時間帯は恐らく夜。だというのに眩しいくらいに眩い。頭上を見上げれば、建物の上から杯を持った巨大な大男が男を見下ろしている。
「なんだ、ここは」
 ルディネは理解が追いつかなかった。
 明らかに自分がいた世界とは違う場所。魔物に襲われたのは夢だったのだろうかと錯覚してしまう。体を見たら深々とあった傷はなくなっていた。
「……なんだこの匂い」
 くんくんと鼻を動かす。
 あちらこちらから漂ってくる美味そうな匂い。これは、食事の匂い。
「飯だ!」
 ルディナは目を輝かせてその匂いがする方向へ歩いていく。
 そうして知らぬ間に異世界から北海道は札幌へ転移してしまった男の北国食い倒れ放浪ライフが幕を開ける——。