札幌の都心。地下鉄大通り駅構内、十八番出口付近。
 その場所におそらく札幌市民なら一度は聞いたことのあるサンドイッチが美味しい喫茶店がある。
 前々から一度行ってみたいと思っていたけれど、通りかかる度に行列ができているためいつも泣く泣く諦めていた。
「やっとこれた!」
 そして、今日。私、雪野晶は初めて憧れの店にやってきた。
 運良く営業時間少し前に大通りを通りかかったのだ。そういえば、今なら並ばずに入れるのでは……と思い至って店に足を向けてみると、案の定誰も並んでいなかった。
 平日の十時。一般的な会社員であれば今頃職場か自宅でテレワークに勤しんでいるだろう。学生だって授業中。
 こういう時、時間に融通が聞くフリーランスでよかったと喜びながら私は念願の店へ入ることができたのだった。

「こちらメニューです。お決まりになりましたらお呼びください」
 メニューを渡されると、私は嬉々としてそれを覗き込む。
 一種類のサンドイッチの注文も可能だが、多くは二種類ずつ、様々なサンドイッチの組み合わせがずらりとメニューに並んでいる。
「どうしようか……」
 これは非常に悩む。なにせサンドイッチの種類が豊富すぎるのだ。
 たまご、ポテトサラダ、ハム。
 メンチカツ、海老カツ、スモークチキンにスモークサーモン。
 よりどりみどり、空腹の状態では目移りして仕方がない。
 だけど、私は前々からこの店にきたら頼もうと思っていたものがある。誘惑に負けるな、決めていたものを頼め。そして私は迷いを振り払うようにメニューを閉じ、店員さんを呼んだ。
「たらばがにサラダサンドとフルーツサンドをお願いします」
「かしこまりました」
 そう、このお店の一番人気。たらばがにサラダサンドとフルーツサンド。
 最近巷ではフルーツサンドが流行っているようだが、この店では流行り出すよりずっと前からフルーツサンドを置いている。
 たらばがにサンドも数量限定の品物で、お昼過ぎにくるといつも売り切れているという噂のサンドイッチであった。

 期待に胸膨らませながら少しだけ仕事をしていると、料理が運ばれてきた。
「お待たせしました、たらばがにとフルーツです」
「わぁ……!」
 テーブルに置かれたサンドイッチを見て、私は自然と声が出ていた。
 耳が切られた真っ白な厚切りのパン、その間にはたっぷりの生クリーム、大振りの真っ赤な苺、キウイの緑と黄桃の山吹色が見目麗しい色合いだ。
 片方のたらばがにサラダはマヨネーズ味のサラダと一緒に大振りのカニの身がごろんと挟まっている。これまた見た目が豪華な一品である。
「いただきます!」
 さっさとパソコンを片付けてサンドイッチに手を伸ばした。
 ふわふわのパンと具材のバランスが良く、大きめのサンドイッチだがぺろりと食べられてしまいそうなほど美味しい。
 フルーツサンドも甘ったるさがなく、さっぱりと食べられる。デザートというよりはやはり食事だろう。
 朝からこんなに美味しい食事とコーヒーを楽しみながら仕事をできるなんて私は間違いなく幸せものだろう。
 この店はとても人気なお店、あと一時間もすれば満席になってしまうだろう。
 混んでくる前に集中して仕事を終わらせてしまおうと、私はサンドイッチを食べながらエンジンフルスロットルで仕事に打ち込むのであった。