「はぁー……だめだ。なにもわかんねぇ」

 雪森当主の、九条優都は居間で大の字になりながら呟いた。雪乃が優都の前に姿を現してから数週間の時が経っていた。その間も優都は、分家の情報を調べてはいたのだが有益な情報は掴めていなかった。そもそも優都自身、分家の存在を雪乃に初めて聞いたのだ。どうやって調べればいいのかわからなくて当然でもある。頼みの綱である祖父の源治に優都が何度も通話アプリで電話を掛けているのだが、応答は無い。

(じいちゃん、どこにいんだよ)

 突然、当主を退いて「旅に出る」と言って家を出て行ったしまった祖父を優都が思い出しているとスマホが鳴った。

 スマホ画面には『九条源治』の文字。

『もしもし?!』

『優都、なんか用か?』

『いや!いや!今かなりやばい事態になって!九条家の分家の奴が……』

 優都は焦りながらも、なんとか詳細を源治に伝える。

『……離れの蔵を見ろ』

『は?それだけ?』

『馬鹿者。当主はお前だろうが』

『いや!わかってるけど!――――てか今どこにいんの?』

 不安そうな表情をする優都。唯一の家族である源治には優都も無意識に甘えが出る。

『ウルルだ』

 一瞬の静寂。

『え?オーストラリアじゃん?なんで?』

 優都が聞き返すが、返事は無く機械音が流れる。

「……切りやがった」

 源治のしょっぱ過ぎる程の塩対応に呆然としながらも、優都は首に下げている首飾りを握りしめた。源治が鬼の様に厳しいのは今に始まったことではない。幼い時、雪の森に一人取り残されたこともあれば、武道を教える際も手加減は一切しなかった。優都はそれら全て自分自身の為にしてくれていると理解はしていたのだが。

「わかるけど!腹は立つんだよ!」

 自由を愛する源治の奔放な行動に優都は悪態を付かずにはいられなかった。

 源治に「蔵を見ろ」と指示された優都は、離れにある蔵に向かう。蔵には、南京錠が掛かっているので古びた鍵穴に鍵を差し込んだ。錆びついていて中々開かないが、かちゃかちゃと数度回すと錠が外れた。立て付けの悪い扉を腕と足でなんとか開けた。

 蔵の中は暗く、埃っぽい。優都は軽く咳き込みながら持っていたライトで蔵内を照らす。

「まぁ、整理整頓されてるわけないな」