私は雪野晶。フリーランスのグラフィックデザイナーだ。
在宅ワークにも飽き飽きし、初めてみたのは外での喫茶仕事(カフェワーク)。
今日は車で札幌市は南区にある藻岩下にやってきた。
札幌市の顔である藻岩山。その麓には意外と隠れた名店が多い。
お洒落な店構え。中に入ると古民家風の内装になっている。店内はかなり広く、店内側のテーブル席は暖色灯でロマンチックに。窓側のテーブル席は外の景色がよく見え美しい。
いつも街の喧騒の中で過ごしているからたまには自然を見て過ごそうと、私は窓際の二人がけのテーブル席に腰を下ろした。
「いらっしゃいませ」
「あの、こちらで仕事をさせて頂きたいのですが。長居してしまってもよろしいでしょうか?」
「勿論ですよ。ごゆっくりどうぞ」
念のため確認すると店員さんは快く承諾してくれた。
これで今日の仕事場は確保できたと、私は落ち着いてメニューを見た。
カレーやオムライスなどの食事系メニューからデザートまで種類が豊富だ。
現時刻は昼過ぎ。朝を食べ損ねていたから、丁度いい。今日は満腹まで食べようじゃないか。
「すみません! ドレスオムライスを一つ。それと食後にカフェショコラと黒胡麻のチーズケーキをお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
無事オーダーを終え、私は早速仕事に取り掛かる。
窓の外に見える木々にはうっすらと白雪が積もり幻想的な景色が見える。窓が額縁のようでとても美しい。きっと季節ごとに色々な表情を見ることができるのだろう。
「お待たせしました。まずドレスオムライスになります」
食欲誘う香りとともに注文していたオムライスが運ばれてきた。
デミグラスソースの海の中心に盛られた黄色い山。トロトロの半熟卵はきれいな模様を描き、ドレスのように美しい。
「いただきます」
崩すのがもったいないが、手を合わせ早速大きなスプーンで一口食べる。
口の中に広がるデミグラスソースのこってりとした味、卵のトロトロ加減とチキンライスが絶妙にマッチしてたまらなく美味しい。
想像したよりも量が多く、食べられるか一瞬不安になってしまったがぺろりと平らげてしまった。
「すみません、デザートお願いしてもいいですか」
「きれいに食べていただいてありがとうございます。今お持ちしますね」
しばらくして運ばれてきたデザートと飲み物。
黒ごまのチーズケーキは、チーズケーキの表面に黒胡麻のソースできれいな波模様が描かれていた。
見た目も美しく、味も良い。
なんて幸せなひと時。こんな贅沢をしながら仕事をしてもいいのだろうか。
「よし……やってやる!」
その分仕事を頑張ればいいんだ。
私は気合を入れ直し、ケーキを味わうためにちびちびと食べながら仕事に取りかかった。
「……すっかり長居してすみませんでした」
そうして時は流れ、二時間もいてしまった。おかげで仕事は無事に切りが良いところまで終わったが、店側に申し訳がない。
「いえいえ。お気になさらないでください。またのお越しをお待ちしております」
会計を済ませ、駐車場に止めてある車に乗り込んだ。
「……っ」
ゆっくりと体を伸ばす。
お腹もいっぱいで頭も使った。かなり眠くなってきたぞ。
安全運転で家に帰って気持ちよくお昼寝しよう。
藻岩下での喫茶仕事、今日もまたいい仕事ができた。