「川西、渡! これに出ようぜ!」
大学二年の冬、同期の吉野がある一枚のチラシを見せてきた。
『なよろ国際雪像彫刻大会ジャパンカップ』——世界中から集まった三人一組のチームで競い合う雪像コンテスト。
学生が参加できる部門もあり、大学同期の男子三人で出場することになった。
開催地は道北名寄。世界大会ということもあり、ホテルの宿泊費などは主催者持ちという太っ腹なイベントなのだ。
大学で授業の合間に三人で雪像のデザインをし、防寒具や道具を揃えいざ本番に挑む。
開催期間は毎年違うようだが、今年は三日の制限時間で雪像を完成させる。
「これを削るのか……」
目の前にあるのは、三メートル四方の立方体の巨大な雪塊。
これをスコップなどの道具で削り、形を作っていく。ちなみに電動工具類の使用はNGだ。
最初はすぐにできるかと思っていたが、考えが甘かった。
雪の塊は硬くそう易々と削れたものではない。
「これ、作れるのか?」
「……やるしかないだろう」
目の前にそびえ立つ大きな塊を前に、自分たちが練ってきた雪像が本当にできるかわからないがとにかく手を動かすしかなかった。
日中はともかく、夜になると名寄はとても冷え込む。
本来ならばさっさと暖かいホテルに戻って休みたいところだが、制限時間内に終わらせなければ失格となる。
そのため、他のチームも明かりを灯しながら作業を続けていた。
寒い。寒くて手が悴むが、暖かいカップラーメンを食べると少し回復する。
「寒いなぁ」
口々に呟きながら、手を動かす。
二夜目。皆疲れがではじめたのか口数少なになってくる。インドア派の川西と吉野がダウンし始め、比較的アウトドア派で体力がある渡が率先して雪像を作っていく。
そうしてどうにか形ができ始めてきた。
最終日。最後の追い込みだ。
「よし、もう少しだ!」
「頑張れ、頑張れ!」
疲れが一定値を超え、ランナーズハイのような状態になり皆ハイテンションで作業をしていく。
そうして三日間の作業が終わった。
「できた……」
そうして出来上がった雪像は、不器用ながらも我ながら良い雪像ができた。やり切った。
周りのプロの彫刻家たちに比べれば幾分か稚拙な作品かもしれないけれど、達成感はひとしおだ。
——結果彼らの雪像は、見事学生の部で入賞し表彰された。
名寄から札幌まで電車で帰る。体は疲れ切り、皆札幌まで爆睡して帰る。
こうして極寒の青春は終わりを告げた。
ここで過ごした三日間は彼らにとって一生忘れることのない思い出になることだろう。