「もうっ、どこに行ってたんですか!」
何故、私の方が怒られているんだろうか。あちらこちらのショーウィンドウに気を取られ、キラキラと目を輝かせながら足を止めて、ふと一瞬目を離したときには網走監獄に収監されていた伝説の脱獄囚「五寸釘の寅吉」のごとく忽然と姿を消していたのはあなたの方なのに。
私もそんなことに慣れっこになっているので、真剣に探しもせず自分のショッピングに専念していたのだが。

彼女はいつだって、何かを探している。
気に入っていた靴を履き潰してしまったということで、今回は新しい靴を探しているが、時にその対象は雑誌の特集で見かけたスイーツだったり、名前だけは聞いたことがあった気がする作家の展覧会だったり、はぐれてしまった友人だったりする。
好奇心旺盛、が彼女を端的に表現する言葉だろう。

そうやっていつも、彼女と彼女の好奇心に振り回されているのだが、嫌な気持ちになったことは今までなかったと記憶している。
確かに、毎度毎度勝手にどこかに行ってしまって合流できないということには、最初のうちは戸惑いと不安があった。私も通り過ぎたお店を遡り、興味が向きそうな場所を探し、必死に探してみていた。

そうやって不安にさせされても、嫌にならずにこれたのは、絶対に彼女が私を見つけてくれるからだ。
私の必死さを知らないで、ひょっこり「どこに行ってたんですか!」と彼女が現れる。
いつだったか、絶対に私から見つけてやるぞと意気込んで探してみたが、そのときも彼女に先回りされてしまった。
諦め半分おかしさ半分、どうせ彼女なら私を見つけてくれるのだからと、こういうときに彼女を探すのはやめて自分の時間にすることに決めたのだ。
仲がいいのか?と疑問に思われるかもしれない。実際、不思議な信頼関係だと私も思う。
だが、かけがえのない友達だ。キラキラした目をさせている彼女が好きだ。

「まあいいや! そろそろ一旦休憩して、そのあとまた見に行きましょうか!」
あれだけ自由に見て回っていたというのに、彼女はまだ見足りないのか。次から次へと溢れ出てくる好奇心は泉のように尽きることはないのだろう。

「そういえばですね、さっき雑貨屋さんで見かけたんですけど・・・・・・」
・・・・・・あなたは靴を探しに来ていたのではなかったんだろうか。