ある日のこと。道外に住んでいる学生時代の友人から久々に電話がかかってきた。
「久しぶり。どした?」
「おー久しぶり。あのさ、俺来月車で北海道旅行行くんだよ。久々にお前に会いたいし、そっち遊びにいってもいいかな?」
「おー、いいな。おいでおいで」
卒業後俺は地元の北海道に残り、元々道外出身だった友人は北海道を離れ道外の企業に就職した。
大学を卒業してからかれこれ三年。久々の友人との再会に心が躍る。
「どこ見て回るんだ?」
「夜青森からフェリー乗って函館に向かうんだ。そこでちょっと観光してから札幌で一泊するから……夜、一緒に飲まないか?」
「そりゃ勿論。でも札幌まで遠いけど運転一人で大丈夫かよ」
「雪も降ってないし、そっちは道路広いし大丈夫だよ」
電話の向こうから楽しそうな声が聞こえる。
北海道も街中を除けば、関東に比べると道路も広く比較的運転がしやすい。季節は初夏。北海道も少しは暑くなってきたとはいえ、関東に比べれば幾分か涼しく過ごしやすい。避暑旅行には最適なのかもしれない。
「北海道(こっち)に何日いるんだ?」
「休みがそんなに多く取れなくて。移動除いたら二泊三日かな」
二泊三日、車で北海道はいささか弾丸旅行になることだろう。だが、彼もまだ若い。その分体力もあるから多少の無理は大丈夫なのかもしれない。
「次の日は小樽観光とかか?」
「いいや。次は富良野でラベンダー見に行くんだ」
「……は?」
ぽかんと俺は口を開けた。
「まて。お前、今二泊三日っていったよな」
「おう」
「じゃあ、富良野に泊まって……帰りは苫小牧からフェリーって感じか?」
「なにいってんだ。行きも帰りも函館だぞ」
「………………冗談だろ?」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
道外の人間は北海道の広さを知らず無謀なことをいうことがある。
函館から札幌間が二五五キロ。東京から静岡までの距離。
札幌から富良野間が一一三キロ。東京から山梨までの距離。
富良野から函館間が驚異の五百キロ。東京から大阪までの距離。
彼は無謀なことにたった一人で、三日で千キロ近くを移動するつもりなのだ。
誰しも東京から大阪を車で二日で往復するといったら誰も決行しようとはしないだろう。
一応彼も四年間北海道で過ごしたはずだからわかっているかと思っていたが……認識が甘かったようだ。
楽しい北海道旅行を過ごしてもらうためにここは友人として止めなければならない。
「悪いことはいわない。旅行計画を一から立て直した方がいい」
「え?」
「絶対にやめた方がいい。俺も協力するから」
俺は真剣に友人を説得した。
来月、思い切り楽しんでもらうために。旅行会社社員でもないのに、俺は必死になって彼の旅行プランを考えるのであった。
北の大地を侮るなかれ。北海道旅行は計画的に。