「うそっ、このラーメンすり鉢に入ってる」

目の前に巨大なすり鉢に入った味噌ラーメンがどん、と置かれました。

「残しちゃ駄目」との張り紙。

えらい店に入ってしまった。

メニューを冷静に見ると「エベレストラーメン」「ヒマラヤラーメン」などなど。

ヒマラヤラーメンは壺に入っているのですよ。そう、壺というかかめ

凄すぎます。

ここはどかんと大盛系のラーメン屋。

そんなことなどつゆ知らず「小樽のおいしい味噌ラーメンのお店」という情報を

ガイドブックを見てこの店に来ました。

テレビの取材も来てるみたいで、びっくりラーメンの写真が誇らしげに壁に貼られています。

この時はまだいなかったけど、有名な大食い女王が来てもおかしくないかと。

知らなかったです。

こんなに「食べろ」を強要する店だとは…。

小樽、運河、港、ランプ、坂道、素敵な街、というイメージで訪れたんです。

当然ラーメンもオシャレ。

そう信じてました。

浅はかでした。

つらかったです、

こんなに食えないです。

でも、店主のおかみさんがにこにこしながら「たんとお食べ」といってるようで、

その期待は裏切れないです。

とほほ、食べました。

頭を真っ白にして食べたです。

小樽、オシャレな街。

きっとそうなんだと思います。

でも僕の小樽はラーメン地獄の思い出しかないです。

そんなさんざんな夜を過ごして、翌日は積丹半島の旅。

海があっけらかんと蒼くて綺麗です。

北海道とは思えない繊細な海岸線が続きます。

名物の「浜鍋」を食べました。

貧乏旅行をしていたので、1500円の出費は超痛かったのですが、美味い!

お金は使うべきとこでは使うべきだと思いました。

特にホタテが美味い。

さすが北海道。

自転車で7日間旅しました。

基本野宿で、贅沢する時はユースホステルです。

旭川、浜頓別、宗谷岬、稚内、礼文島、札幌、小樽、積丹半島、と、いろいろ廻りました。

駅名は忘れたけれど、なんのへんてつもない駅前で休んでいたら、

地元のヤンキーが近寄ってきて、ちょいビビリました。

でも「おーい、どっからきたんだべ」と明るい声、

あれれ、怖くないじゃんと、

北海道のヤンキーはやさしい、妙に感動したです。

そのあとで、大衆食堂で、鮭の塩焼き定食を食べてしあわせ気分。

なんとことない出来事ですが、なんだかいい思い出になってます。

やはり、旅は人と出会いが大切かな、と。

最終日、小樽港の公園で野宿をして、フェリーを待ちます。

夜明け前、海と空の間が不思議な色に輝いて、朝日が昇ってきました。

この世とは思えない青と光のグラデーション。

これで北海道ともさよならかと思うと、何だかしんみり。

フェリーに乗り、小樽港から離れていく時、急にせつなく。

いつのまにかこの大地がとても好きになっていました。

あの時の気持ちは30年経った今でも鮮明に覚えています。

でも、一番の思い出は、あの小樽の「すり鉢味噌ラーメン」。

恐怖でしかなかったです。

北海道、おいしい味噌ラーメン、は僕にはありえないです。