札幌に転勤してから5年が経過した。
家族と共に、生まれ育ったこの土地へ戻ってくることは嬉しかった。
だが、長いこと忘れていた病気がついに再発した。
シラカバ花粉症だ。
札幌の中央部ともなれば、整備されたアスファルトや石畳も多い。
風が吹こうものなら、落ちた花粉はフワリと舞い上がる。
コロナでマスクをしているから大丈夫だと高をくくっていたが甘かった。
気持ち良い青空に別れを告げて地下街へ逃げ込むと、スマートフォンがメッセージの受信を告げる。
「目がかゆくなってきた~~~~!! スギ花粉!?」
ついに発症してしまった。いや、時間の問題だったかもしれない。
転勤が決まった時には「花粉症無いなんてサイコー!!」と言っていた妻だったが、北海道にも花粉症があるという事実を告げなければならない。
『これね シラカバ花粉』
「シラカバって、白くてシマシマの木のやつ?」
『そうそう』
「え!? シラカバって花粉症あるの? あんなにキレイなのに?」
『あるよ キレイだから花粉無いなんてことないよ』
「そっかー 花粉症とは無縁の人生になったと思ってたんだけどなー」
『黙っててゴメン』
「そっかー……」
チクリと胸に痛みが走った。
スギ花粉に悩まされてきた妻のことだ、二度目の花粉症はさぞかしショックだろう。
どんな言葉をかけてあげればいいだろう。
慰めになるか分からないが、帰りに花粉症の薬を買うように言っておこうか。
そんなことを思った矢先に、
「よっしゃあああああああ!!!」
と、元気の良いメッセージが表示された。
『よっしゃあ? なんで?』
「あたし的には道民になったんだって思ったから!!」
予想外の返答に思わず噴き出した。マスクがあってよかった。
転居届を出した時点で道民だと思っていたが、妻にとっては違ったらしい。
シラカバ花粉の飛散が終わるまで、あと2ヵ月。
妻のお陰で『道民らしさ』を意識する日々が続くことになりそうだ。