私の彼氏は動物ハンター系男子だ(私がこっそりそう呼んでいる)。
 動物を模した可愛らしいデザートを好む彼氏の守備範囲は、どうやら私が思うより広いらしく、デザートのほかにパンも彼氏の狩り領域であるらしい。

 ペンギンベーカリーカフェのイートインにやってくる香ばしいパンの匂いにつられて、お腹がきゅーっとペンギンの鳴き声のような音を立てる。

 絶妙なタイミングで、彼氏がパンを両手に持って席に戻ってきた。

「ごめん、お待たせ」

「ううん。全然待ってないよ」

 お腹の音を聞かれなくて良かったと安心しながら、可愛らしく手を振って応える。
 果たしてこの仕草で正解かどうか正直私にはわからないが、かわいいと評判のゼミ仲間がこんな感じの仕草をしていたので、多分大きく外してはいないだろう。

「いろいろなパン買ってきたから、好きなもの選んでね」

「ありがとー。お目当てのパンは買えた?」

 パンを受け取りながら尋ねると、彼がぱっと目を輝かせた。

「じゃーん、見て! ペンギンミニメロンパン!」

「わー、かわいい! 焦げ目でペンギンが描かれているのかな? 手のひらサイズがまた可愛さ倍増だね」

 おっと、倍増の表現は可愛くなかったな。ましましとかだったか。

 心の中でひっそり反省していると、彼はペンギンのほかにコアラやトラにパンダと、違う動物が描かれたミニメロンパンを見せてきた。
 ミニメロンパンによって、机の上は小さな動物園と化す。

「置いてあった種類ぜんぶ買ってきちゃった」

 ちょっと恥ずかしそうにしている姿が、ミニメロンパンの動物に負けじと可愛らしい。

 作り笑いでもない素で漏れ出た笑いを顔に乗っけて、良かったねーと明るく返す。
 かわいいの嵐が吹き荒れる中、何とか取り繕うとカレーパンを手に取る。

 待っている間にお店について調べていた際に、一番食べたいと思ったのがカレーパンだった。
 「カレーパングランプリで最高金賞受賞!」の文言を見たときから、最初に食べるパンはカレーパンと決めていた。

 もちろん彼が食べたがっているミニメロンパンも食べたいので、私の分も残しておいてね♪と、きゅるりとしながら伝えておく。

「いただきます」

 手を合わせてカレーパンを口に入れた途端、迎えられたのはフォンデュチーズとカレーだった。
うまっ!と反射で出そうな声をぎりぎり抑え込んで、美味しいの言葉に変換して発声する。

「良かった。美味しいって評判のパン屋さんだから、どうしても美代ちゃんと行きたかったんだ。一緒に食べに来れてよかった」

 まーたそういう可愛いことを言う!
 なんて危険なハンターだ! 油断も隙もない!

 美味しいパンを前に、私にかわギレを起こさせないでほしい。
 美味しいを前に取り繕うのは難しいのだから。

 理不尽極まりない理由で彼を責めながらも、熱くなった頬を誤魔化すように、カレーパンをもう一口齧った。