「俺、晴ボーイ!」
さっき稚内の駅前で知り合った彼・雄二君が僕に唐突にそう告げた。
???なに。
俺がどこかに出かける時はぜったい晴れるんだ。
うそみたいだろ、でもホントなんだ。
僕は自転車で北海道を旅していた。
さっきまで、宗谷岬にいて、稚内に移動。
駅の軒先で野宿をするために、寝袋を出したところだ。
となりにやっぱり同じように北海道を旅している雄二君に出会った。
何だか意気投合して、なんやかんや話をする。
そして、「俺、晴ボーイ」の話が出た。
へー、と適当に流して聞いた。
何を言っているのかわけがわからない。
近くのラーメン屋に一緒に行き、寝袋を並べて駅の軒先で寝ることに…。
二人の行先は礼文島。
きちがいユースと悪名高い?「桃岩荘」に泊まる予定だ。
朝起きると、昨日の台風がうそ、というくらいにピーカンの快晴。
いい天気だ。
二人でフェリーに乗りたわいのない話をだべる。
何だか楽しい。
この旅行にくる前にいろいろいやなこともあった。
彼女とも少しヤバイ。
就職も控えて、それも不安。
まあ、いろいろありもって出かけた今回の旅。
札幌、小樽、旭川、大雪山、宗谷岬と自転車で野宿をしながら旅してきた。
カップルで自転車で旅しているやつもいたりして、うらやましいやら、くやしいやら、何だかんだあって、
雄二君とここにいる。
「なあ、なんで北海道に?」
「特に何も考えてないよ」
「どこに行きたいとか?」
「いや、いきあったりばったり」
「何で礼文島に」
「さあ、気まぐれかな」
と、まあいいかげんなのだ。
そんな彼と話していると、なんやかんやあってパンパンだった僕も気持ちが楽になってきて、
彼女に振られた話とか、うまくいかない就職の話とか、普段友達にも話せないようなことも気軽に話した。
何だか、かれは人をラクにさせるチカラがあるようだ。
そして礼文島の港にフェリーが到着。
桟橋で日章旗をブンブンと振り回している人がいる。
泊まる予定の「桃岩荘」のペアレントだ。
それからは異次元の世界。
まず、「桃岩荘に泊まる人」、を二人で手をつなぐように指示してくる。
えー、何なんだと思いながらも、けっこう楽しんで女の子と手をつなぐ。
道中にトンネルがあり、「このトンネルをくぐったらもう別の世界ぃ~」とユースのペアレント。
何だかわくわくしてきた。
そしてユースに到着。
礼文島の自然はそれはそれはとても素晴らしく、
高山植物がありあえない低さで咲いていたり、
海岸でめのうが獲れたり。
夜は丘にみんなで集まり、踊り狂ったりして、
普段の自分の鎧を捨ててバカになれた。
この世と思えないくらいのしあわせ感を味わえた。
一泊の予定だったけど、おかわりでもう一泊してしまった。
あとの旅程はぐちゃぐちゃに…。
それでもいいと思えるくらいハッピーだった。
思った、自然の素晴らしさはもちろんあるけど、
「旅は人との出会いだ!」と。
で、ここでだ、この素晴らしい体験もやはり天気が良かったことが大きい。
例えば雨だったら、その魅力は半減していただろう。
でも、気前よく思いっきり晴。
もしかしたら雄二君のおかげ?
いやいやそんなことないだろうと思いながら、
夢のような時間を礼文島で過ごした。
そして、稚内の港に帰り、雄二君ともお別れ。
バイバイをしたあと、
びっくりしたことに雨が降りはじめた。
うそ、やつの晴男はホント…。
人との出会いは大切だ。
あれから30年。
いろいろあってごちゃごちゃしてる。
また礼文島にに行きたい!
心の洗濯をするために。
晴空の下で。誰か素敵な人に会うために。