3月11日
働き方改革は夫の会社にも及んだ。テレワークを開始するので、今後会社に来る必要はないということだ。
どこに住居を構えても自由ならば、物価が安く気候がよいところに決まりだ。
私達は公共交通機関が充実していて、雪の悪影響を受けづらい札幌に移住を決めた。

4月7日
私達夫婦は札幌に移住した。
冬は寒いのではという心配の声が知人が上がっていたが、家の作りが二重窓であり、大きな灯油タンクを用いるストーブが完備されている以上、こちらのほうが暖かいのは調査済み。
不動産業者を挟まない親戚の紹介とはいえ、庭付きの一軒家が600万近くで買えたのはすごい。
エアコンもあるし、ときおり暑くなった日も怖くない。
さあ、快適な生活を満喫していくとしよう。(そうなるといいのだけど)

5月13日
私達夫婦は札幌に住んでいる親戚以外に友人もいない。
子供たちも都会の大学に通っており面倒を見る必要もない。
すっかり私は出不精になっており、連休中に旅行や外出もしていない。
夫の仕事も順調なだけに、生活に心配のなくなった私は、お菓子を食べながらスマホとテレビ三昧の生活をしている。
いかん、これは本物の干物女ではないか。
そうだ、家計の足しになることをすれば、退屈さも紛れて一石二鳥のはず。
明日からでも実行するとしよう。

5月14日
思い立ったが吉日。
まずはスーパーで半額になった肉、魚、惣菜などを買い占める暴挙に私は出た。
これが暑い地域ならば半額になったものは食中毒になりやすいが、北海道ではその危険が薄いことが嬉しい。
だが、冷凍庫はもういっぱいだ。
夫と交渉して、冷凍庫を別途買い足すことに決めた。
またさらに半額食材を買い占めてお得な思いをするとしよう。

6月5日
冷凍庫ももういっぱいになってしまった。
しかし、半額食材はまだまだスーパーに出回っている。
欲の皮が突っ張っているのは百も承知だが、もっと得をする方法はないかと考えながらニュースを見た。
本州は湿度の高い梅雨に悩んでいるらしい。それを見て私は膝を打った。
北海道には梅雨がない。夏も湿度がそこまで高くないだけに、食べ物が凍る冬以外の季節全てで干物を作れるではないか。
ましてやここは一軒家だ。マンションと違って美観も損ねないだけに、外で干そうが問題あるまい。
私はすぐにネットでドライバスケットを欲張って3つほど注文した。
干物ライフの始まりだ。

6月13日。
干物は大量にできている。
半額で買った野菜も干し野菜にすれば、肉や魚と同様、体積も小さくなって冷凍できる。
しかもその味の良さに夫婦で舌鼓を打ったものだ。
しかし、それでもなお冷凍庫がパンクしそうだ。
お得生活の発展もここでおしまいか?

6月21日
やってしまった。
ついに冷凍庫の容量を超えて干物が出来上がってしまった。
しかし、偶然にも近所の奥さんに話しかけられ、北海道の生活に慣れたか聞かれる。
私はその話に便乗して、どうせ腐らせるぐらいならと、干物をあげる流れに持っていった。
すると、お礼とばかりに漬物をもらう。
まるでこれでは物々交換だが、悪くない。
自分の作っていないものを貰えるのだから。
そして、さらに今日はお得な情報がもらえた。
その奥さんに、魚を干す際に頭や内臓などの生ゴミが出るのが面倒と話すと、生ゴミ処理機を買えばいいと勧められたのだ。
値段が高いだけに、中古品をネットフリマで買ってみることに。

8月2日
すごい。
生ごみ処理機を使ってできた乾燥したゴミは肥料になるとのことだったが、庭にまいてみたら、味のとても良い野菜が大量にできる。
土や肥料を別途買う必要がないほどだ。
しかし、とてもこの量の野菜は食べ切れない。誰かにあげなければ……
と、今ここまで書いていてわかったことがある。
自分が満たされていくと、自然と人や社会のことを考え、関わっていきたいと思うようになるということだ。
私はもう、干物女では満足できない。
干物女から卒業させてくれた干物作りを、私は今は誇りに思っている。