これは絶対に不正だ。何か裏で陰謀が働いているのは間違いない。
「どーして、3年連続で抽選に落ちるのよっ!?」
隅田川の花火大会の特別観覧席を取るべく応募した私の望みは、またしても無残に砕け散った。
とはいえ、ないものねだりをしてもしょうがない。
私は今年の夏の終わりぐらいに、札幌の親戚のところに遊びに行くということで、どこを回ろうかとスマホで調べていった。
「真駒内アリーナで花火大会がある! 有料席もたくさん余ってるみたい!」
花火の発数も2万発以上で、隅田川と殆ど変わらない。ならば私の夢は事実上達成されるも同じだ。
私は一番前の席に陣取るために、即座にチケットを取るべく、明日、大学近くのコンビニに向かうことにした。

私は奮発して8000円の最前列エキサイティングシートの席をコンビニで購入していく。
友人に自慢しようと、SNSを開いた私だが……
『すっごくいい会社に内定取れちゃった!』
『卒業したら彼氏と結婚するの決まったよー!』
そんなメッセージを見ると、花火大会の最前席を取ったぐらいでは恥ずかしくて報告できなかった。
「私の人生って大したことないなぁ……これからもそうなのかも……」
いや待て。花火を見るという夢を叶えれば、私の運気というのも大きく開ける、と思う。
私は最高の花火大会を迎えるべく、浴衣セットの購入を決意するのだった。

「一夏ちゃん、今日の花火大会だけど、睦美も連れて行ってあげてくれない? 高校生だと一人じゃ不安でね」
「私の取った席、最前席だよ? 当日券なんて取れるかな? げ、まだ本当にあった……」
ダメ元で調べた私は、最前席にまだ余裕があることに戦慄する。
私は開催事務局に電話して、当日券を確保できると確認すると、会場へ向かっていった。

「私も浴衣があればなぁ……ちょっと残念かも」
「睦美ちゃん、別にカップルで行くわけじゃないし気にすることないよー」
「じゃあ、一夏お姉ちゃんは、彼氏さんがいるの? 聞いてもいい?」
「今度時間があるときね、あはは……」
私達は会場でビーチチェアよろしく、寝ながら見られる贅沢な席に迎えられた。
そこから後ろの無料席へ向くと、あまりの遠さと混み具合が見え、意地悪な優越感を感じてしまう。
「うわあっ……!」
花火が始まる前に、装飾用のバーナーに火が灯る演出が入るが、それが発する熱すら、最前列の私には感じられた。
そこからはもう、夢のような時間だった。
大きな花火が次々と視界の中で弾けていき、動きのあるプラネタリウムを見ているかのようだった。
そして、一つの演目が終了し、最後の一発に一際大きな花火が上がる……!
「あっつーっ!! なにこれぇっ!?」
私は足首に、アルミホイルの芯を細くしたようなものが火がついた状態で直撃し、悲鳴を上げた。
「あー、花火のガラが落っこちてきたな。最前席は毎年これがあるんだよなぁ」
周囲の人達はいとも当たり前そうに語っていたが、私は浴衣が運良く焦げなかったことにホッとしていた。
しかし、もう一度落ちてきたらどうしようと思うととても後の演目をくつろいで見られない。
後ろの無料席では浴衣を着て楽しそうしている人たちがたくさんいる。
花火のガラの存在など知ることもなく。
——ああ、私が羨ましがっていた他人の幸せもこんなものだったのかもしれないな。
他人の幸せの報告の裏に、どんな面倒なことがあるのか、私は考えたこともなかったのだ。
ようやく手が届いた葡萄が酸っぱいということは当然にあるのという事実を、私は思い知った。

なんとか浴衣を焦がさないまま花火大会は終わり、私達は帰り道を歩く。
「その浴衣と花火、似合ってたよ! 彼氏さんがいたら、すごく絵になったと思う!」
「睦美ちゃん、それはありえないんだよ、だって実は私には……」
もう、手の届かない幸せそうな出来事をただ羨ましがるようなことはやめよう。
今目の前にある、自分の力で手に入れた幸せを大事にしていくんだ。
それが例え、他人から羨ましくすら見えない、酸っぱい葡萄以下のささやかな幸せだったとしても。