「あーあ……やっぱりダメだったか」
俺はアプローチをしていた女の子に「お付き合いできません」と言われ、潔くSNSの友達リストから彼女を消去した。
「まあ、もともと一人でいたようなものだしな……前に戻っただけと考えれば気が楽か」
別れを告げられたことはそれなりに辛い。
だが俺自身、単独行動が好きなだけに、孤独や別れには耐性がある。
俺は、しばらく自分だけで楽しもうと、これから一人で楽しみたいレジャーのリストを作っていくのだった。

「和明、最近何してたんだ?」
「ああ、外食、映画、カラオケに一人で行ってたんだよ」
「いやさ……他人の趣味をどうこう言いたくないけど、それって一人で行って楽しいか?」
「1人だからこそ、満足行くまで楽しめるんだよ。みんなといると遠慮しちゃうからな」
みんなは残念な顔をしつつも、俺の意向を尊重して1人にしてくれる。
俺は、みんなに感謝しつつもスマホを操作して、次の目標の下調べをしていた。
俺は高い場所から夜景を見下ろそうという計画を立て、スポットを比較する。
どうやら札幌市で一番高度のある展望台は、JRタワーやテレビ塔ではなく藻岩山だそうだ。
しかも今はクリスマスが近いだけに、雪景色がとても綺麗らしい。
俺は双眼鏡を準備した上でここに行ってみようと、計画を詰めていくのだった……

俺は藻岩山展望台に向かうケーブルカーに乗り込んでいく。
クリスマス直前だけあって、カップルが大量に乗車していたが、そんなことは全く気にならない。
それほどに外の景色は美しく、俺は時折、登山用の腕時計に表示されている標高の数字が高まるのを見て楽しんでいた。

頂上の展望台から見る、街の光を雪が反射する夜景は、想像を絶するほど美しかった。
しかし、標高が高く、遮蔽物もないだけに寒さもまた凄まじい。
足から指先まで防寒対策をしていた俺は問題なく、双眼鏡を構えて楽しんでいた。
しかし、装備が不十分なカップルたちはすぐに屋上にある幸せの鐘を鳴らすと、屋内へと引っ込んでいった。実にリサーチ不足でもったいない。
展望台の屋上は、もはや俺だけしかいない。バスの時間ギリギリまで粘って楽しみ尽くす覚悟だった。

「え……? 1人……?」
展望台の屋上に、女性がやってきた。たった1人で。
どこか儚げで、昼になると姿を隠すかのような雪の妖精を思わせる容姿を持つ彼女に、俺は目が離せなくなる。
彼女は展望台の外周を回りながら、雪のちらつく中、小手をかざして目を細めて街を見つめていた。
「あの……どうですか? 使っていいですよ?」
俺は自分の気持ちがよくわからないまま、双眼鏡を差し出すが、彼女はそれを黙って受け取った。そして飽きることなく街を双眼鏡で覗き続ける。
俺はその姿に神秘的なものを感じてしまい、彼女の心を少しでも覗いてみたくなった。
「あの……失礼かもしれませんが、どうして一人で?」
「ううん、特別なことはないの。昨日、ここからの景色が見てみたいなって思いついたから。あなたはどうして?」
思ったよりもずっと優しい彼女の声を聞いた瞬間、俺は世界に自分と彼女の二人だけしかいなくなったかのような錯覚を覚える。
「俺も大したことはないよ。好きな人に振られたから、今のうちに1人で行きたいところに行こうって思ってさ」
「ふふふ、私達はとってもバカなのかもね? 煙みたいにこんなに高いところに登ってるんだもの♪」
「ましてや他人の意見も聞かずに1人で来るなら、やっぱりバカなのかもなぁ……」
「でも、似た者同士なら仲良くできるんじゃ? 私も1人でいることが好きだけど、話し相手が増えるのは悪い気がしないの。あなたは?」
「偶然だね、俺も同じだよ。話すんだったら、ここのラウンジで何か飲みながらでもどうかな?」
普段女の子を誘うのには奥手な俺が、自然と気の利いたことを言えている。
高い所は馬鹿な人を選り分けてしまうだけに、ここで出会う人は最高の相性を持つのかもしれない。
そして俺たちは連絡先を交換し……これから週末に二人で話をする約束までしてしまうのだった。